早目に就寝しようと思った。
会った時、もしも
くたびれてるな
なんて 思われたら悲しい。
よく、温まって
グッスリ眠るんだと湯船で決めた。
なのに
二時間くらいで起きてしまって
ベッドの中で横たわったまま
気付けば頭の中のソワソワが始まってた。
そのうち、外が明るい事に気付いた。
月に違いなかった。
起き上がってカーテンを開けた。
寝室の軒先が邪魔で
部屋の中からは月は見えなかった。
ベランダに出てみようか
と思ったけれど止めた。
階下におりて
キッチンの窓から見上げてみた。
見えると思ったのに見えなかった。
どうしても見たくなった。
母屋に繋がる廊下 を進み
南側の縁側からなら 良いだろうと
行ってみた。
やはり見えなかった。
がっかりした。
月は西にあるのか?
そう思って
西側の縁側から見たけれど
だめだった。
そうとう明るい事だ
きっと真上に在るのに違いなかった。
だったら、家の中から
いくら見上げても見えないはずだ。
とうとう、我慢できなくなっていた。
こうなれば外に出てちゃんと見よう
と、思った。
玄関を出ると、軒の影がクッキリと
足元の たたき に映っている。
目を庭先にやれば
木々の影も渡り石に黒々と映っていた。
月明かりのモノトーンの艶めかしさは
心をしっとりと
それでいてギュッと捉える。
池の淵に立って
満天の星にうっとりした。
オリオンは、その小さな星たちまで
ハッキリと見えて、
図鑑と同じように
細い点線をも 瞬きで
夜空に美しく描いていた。
オリオンの左側に
弓を緩やかに膨らませた月はでていた。
煌々と地上を照らし
見れば私の影も芝生に濃く映している。
こんな月夜に夜這いされたらば
平安の姫たちは さぞハッキリと
その面立ちを帝に見られた事だろう
などと過る。
何もかもが あからさまで
明け透けな現代よりも
小春は 月明かりだけ
或いは仄かな灯明だけの
そんな褥の方が好きかもしれない。
「想い」の余地や余白が連れてくる
もどかしさ が良い。。。
そんな たわいのない 事を
ベッドから出て 何も羽織らずに
庭で 思うともなく思っていたらば
さすがに少し寒くなって
急いで家に入った。
背中に、虫の音と
池に落ちる小瀧の音が聞こえていた。