それいけホシトラマン!! -507ページ目

あの日の出来事

私がケビンスペイシー好きなのは、みなさんご存知だと思う。

中でも一番好きな作品は『ユージュアルサスペクツ』だ。

最後の最後であの展開を持ってくるとは。あの衝撃は今でも忘れられない。


ビンス、あー失礼。

これは彼と私の間での呼び方だ。

ケビンと初めて出会ったのは・・・




その日私は、カリフォルニア州南部にあるコルトンからルート10を通り

アリゾナ州のパイソンに向かっていた。愛車フォード・マスタングは今日も

力強いサウンドを周りには何もないただ只管に続く直線ルート10の

地平線まで響かせている。発売してから20年近く経つのに中古車に

並んでいた彼いや、彼女というべきかその魅了する流線型のフォルムと

車から放つ魔性のオーラによって蛇に睨まれた蛙のように私の身体は

その場から動けなくなった。以来20年近く彼女を走らせてきたが

別れは突然だった。目的地のパイソンまであと8マイルの所でエンジンは

唸るのを止め、各パーツは自分の役割を終えたようにゆっくりと静かに

その場に止まってしまった。私は分かっていたかもしれない。

彼女の寿命が短い事を。

しかし自分の中でそれを認めたくなかったのだろう。休みの日には無理に

彼女を連れ出し、ラ・セレーナまで海を見に行った。

その行動はただ単に自分の気持ちを落ち着かせ、彼女と別れるのを

忘れさせてくれる独りよがりというか、自己満足的な形でしかなかった。

結果、このような最後を迎えてしまった。


どれくらい経ったか分からない。気がつくと辺りは街灯一つない漆黒の闇に

包まれていた。朝まで待って車が通るのを待つしかないと考えた私は

車の中で夜を明かす事にした。しかしその考えも一時間も経たないうちに

打ち砕かれた。今は12月。季節は冬。周りには何もない環境での体感温度は

それ以上に私の身体を硬直させた。車内にエアコンなどは元々付いていないし、

今はエンジンも動かない。持っている服は今着ている薄い皮製のジャケットに

シャツとTシャツ。車から出る事はないと思ったのでこれで十分だった。

このままここに残るか降りてこの道を歩くか。決断は迫られていた。

私は残った。彼女一人をここに残して私だけ生き残るわけには行かない。


さらに数時間経ち、車内に残った私はあまりの寒さから睡魔に襲われた。

その中で夢をみた。とても恐ろしい夢だった。

鎌を持ったそいつは執拗に私を追いかけてくる。

袋小路に追い詰められた時、雷がそいつの顔を照らした。

そいつは私自身だった。

驚きながら目覚めると向こうの方からこっちに向かってくる

車のライトが目に入った。

「助かったのか・・・」 私は安堵からそのまま気絶してしまったようだ。


目を明けると眩しい光が目に入った。私はまたすぐ目を閉じてしまったが

そこが部屋だという事はすぐに分かった。というのもドアをノックする音が

聞こえたからだ。

「気分はどうだい?」

コーヒーカップと何やら料理らしき物を手に持った男は私に話しかけてきた。

「私の名はケビン。息があったのであの場所からうちに連れてきたんだが・・」

35歳から40歳手前か。口髭を生やした男は私が寝ているベッドの横に

木製のイスを並べて座り、話を続けた。

「とりあえず、食べなさい。詳しい話は後にしよう」

小さな丸いテーブルの上にその料理を乗せてくれた。

私は「ありがとう」と言って料理をほうばった。お腹が空いていたせいもあって

あっという間に平らげてしまった。食べている時は気づかなかったが後から

ちょっとピリっと辛さが伝わってきた。

「ケビン。これちょっとピリ辛だね~」

「ケビン。ちょっとスパイシーだね~」

「ケビン。スパイシーだね」

「ケビンスパイシー」

「ビンス」




ps.冒頭にあるケビンスペイシーとは一切関係ございません。