タイヤが奏でる正調草津節

法定速度順守へ粋な一手

 

 4月20日から22日にかけての2白3日の長野・群馬を訪ねた旅の中で、一番驚かされたシーンはレンタカーの車内、まったく想定もしていなかったタイミングで出現した。

 白糸の滝から鬼押出しを回り、車で40分ほどかけて草津温泉を目指した。参加者5人全員が初めて訪れる日本三名湯のひとつ。浅間山麓から山あいの道路を駆け下り、草津町に入ったことを知らせる道路標識を目にしてテンションはいやがうえにも高まっていたとき、次に現れたのが「草津メロディーライン」という道路標識だった。

 高地を走る有料道路に「~ライン」というネーミングはよく用いられるが「メロディー~」とはどんな道路を意味するのだろう。

 一同が首をかしげていると、車がスピードの出し過ぎなど、ドライバーへのコーションを出すのに用いられる道路に溝を設けてタイヤの摩擦音を高め、車に小さな振動を与えるエリアにさしかかった。高速道路、スピード超過になりやすい一般道でもよく遭遇する仕掛けだが、さすがは「メロディーライン」と言うべきか、タイヤの摩擦音が、なんと「正調草津節」を奏で始めたのだ。

 「正調草津節」といえば「くさ~つ、よいとこいちどはおいで、どっこいしょ」で知られる有名な民謡。その節がタイヤと路面の共同作業で、それは見事に、正確に再現されていくのに遭遇して、全員口をアングリさせるしかなかった。

 アッという間にメロディーラインを通り過ぎたところで、スマホで「草津メロディーライン」で検索すると、群馬県では「ぐんまメロディーライン」と称して県内10カ所の道路で音楽を奏でる道路を展開していることがわかった。草津メロディーラインはその内のひとつ。この10カ所というのは全国でもダントツの数字だという。

 それにしても、細かな節の上げ下げを道路の表面をどのように加工して生み出しているのだろう。その秘密についても説明がされていた。原則的には路面に刻む溝の幅を狭くすれば音が高くなり、広くすれば逆に低くなる。

 それは理解できるが、「ド」と「レ」、あるいは半音単位の音程の高低が、アスファルトに刻む溝のわずかな幅で生み出されるということがいまだに信じられない。

 ちなみに、さらに技は細かく、法定速度で走っているときが「正調草津節」のメロディーがまさに「正調」として聴けるようになっているそうだ。