真島少年

小学6年生

懐かしの山田義塾に在籍し、中学受験に挑んでいた。

今でいうSAPIXのようなものだろうか。

あの夏、僕は志賀高原にいた。

「合格するぞー!」

ハチマキ締めて、夜遅くまで勉強した。

見たことない先生もいっぱいいたし、もちろん知らない子もたくさんいた。

あれは最後の夜が終わって、みんなで部屋に戻ろうとしていた時だ。

「ねえ、名前と住所教えてくれる?」

と、全く見たことも会ったこともない男の子に声をかけられた。

あまりに突然のことで「え?」

と思ったが、まだ個人情報の「こ」の字もなかった時代だったし、合宿という特殊な環境にいる高揚感というか、仲間意識みたいなものも手伝ってか、

僕は自分の名前と住所を伝えた。

そして合宿が終わり、数週間が経った。

もう合宿の高揚感など薄れたその日

ある宅配便が自宅に届いた。

僕宛の宅配便だ。

何だろう?と思って中を見ると、そこには一つのマグカップが。

取り出してみると…



「ごうちゃんの」


と書いてあった。



僕は合宿の時のあの少年を思い出した。

差出人の名前を確認するも、僕はあの時あの少年の名前すら聞かずにいたんだ。


だから「多分」、あの少年が送ってきたのだろう、としか思えなかった。


あのマグカップは、一体なんだったんだろう。


今、あの少年も僕と同じ50歳。


夏が来て、「塾の合宿」という文字を見ると毎年思い出す。