「響-なげき-」6
紗江の部屋へと向かった・・・
「ガチャ・・」ドアを開けた
部屋に入ると既に紗江はテーブルに座り、小川 京介を待っていた、ジャニスは京介が来たのに気が付き
「コーヒーでいいかと?」と尋ねてきた
『あぁ・・』
椅子に座り紗江を見た・・・彼女は静かに笑みを浮かべ『おはよう』と声を掛けてきた・・
『あっ・・あぁ・・おはよう・・』
俺は紗江のことを知らない・・どんな人間だったのか・・今の笑みは元々の紗江なのか・・それすら知らない・・・ただ、知っているのは愛する人を自分で殺してしまった・・と言う事と・・哀川 京介が全て裏で糸を引いていたとこと・・・
ジャニスはコーヒーとトーストを俺の目の前に置いた・・・
『トーストは嫌いか?』
『いや・・好きだよ・・』
『そうか・・・』
ジャニスはそう言葉を交わすと煙草に火を点けコーヒーを飲み始めていた・・・
『いただきます・・』
『いただきます』
おれがそういうと紗江も食事の挨拶をいい、食べ始めた・・・
何か変な気持ちだ・・・こうして三人で顔を合わせ何事もないかのように食事をしている・・・
数時間もすれば彼女はベットに横たわり精神の世界を落される・・・そして俺が入る・・・
それをジャニスは眺めている・・・
母親(愛美)を救う手だてを知らない俺はジャニスのいう通りにするしかない・・・
『なぁ、ジャニス』
『なんだ・・』
『俺はあの後、変な夢を見たんだ・・・それが夢なのか・・出来事としてあった事なのか区別がつない・・』
『結衣のことか?』
『そうだ』
『お前が夢で見た内容はどういうものだ?』
『哀川 京介がでてきたよ・・結衣をめちゃくちゃにしていた・・・』
『・・・』
ジャニスは顎に手をあてて少し考えていた・・・
『ロードだな・・・潜在意識の中でお前の夢となって続きを見たのだろう・・』
『やはり・・そうか・・・』
『お前の精神が持たないと考え、シャットダウンしたのだが・・・データが後追いしロードしてくる・・・やはり一筋縄ではいかないな・・・』
『・・・』
食事を終えると数粒の薬をジャニスから手渡されていた
『その薬は?』
『彼女の生命線だ・・・これがないと自分を維持することが難しくなるということだ・・・』
『自分の維持・・・元々の自分という事か?』
『そうとも言えるし、そうとも言えない・・何故なら彼女は自己崩壊をしている・・元の性質、性格かは俺達に
は分かり得ない・・・知る人間も、もうこの世にいないからな・・・』
『・・・』
京介は思った・・・あの時の聞こえてきた
「二人の関係は、神と奴隷のような関係・・・神はとても傲慢で悪魔のような男・・・だが、彼女にとっては何ものにも代えがたい大切な人・・・」
あの声が紗江の自己なのかもしれない・・彼女は自分の中で起きている事を眺めているのかもしれない・・・この事は現時点ではジャニスに話さないでおこう・・・そうじゃなくとも自分でもどうする事も出来ないが・・
紗江は薬を飲み終え、暫くするとベットに横たわった・・・
これから行われることを理解しているかのようにも見えた・・・
・
・
・
紗江が寝息が聞こえはじめてきた・・・・
『ジャニス、彼女は今行われている事を理解しているのか?』
『原理的には理解できないはずだ・・だが・・彼女は哀川 京介が残した最後の傀儡・・何かしらのプログラムが残されている可能性はある・・・現に今後、お前が出会うと思われる「綾瀬 千佳」だが・・元々のプログラムとしてない、本体、自我が生まれ共存した事例がある・・・それは私では出来ぬ事・・彼だからできた事・・』
『作成者の意図・・・か・・』
『あぁ・・プログラム上、紗江は「白」と呼ばれる器になってしまった、だが、彼女には不可解なものがある・・それが意図的な物なのか・・そうでないのかは誰も知りえない・・完全に己を崩壊させてしまっている以上・・千佳のような形は原理上無理があるとは思うのだがな・・・』
『俺にはよく分からない話だな・・・ただ、彼女の中の人格を一つずつ解決できれば紗江自身も母さんも元の自分に戻れるという事だよな?』
『解決できれば、その可能性はあるという事だ・・・』
ジャニスは可能性としての話をする・・まぁそれは当然といえば当然かもしれない・・・
誰もがやったことのない、知りえない・・ことだからな・・・
『ジャニス、彼女の世界に入ると真白なホールみたいなところに居る、そして幾つもの扉がある』
『そのようだな』
『通常時というのは、扉を誰かが開けてきてホールの真ん中に立ち、紗江の意識として体を動かしているという解釈で良いのか?』
『その通りだろう・・・』
『じゃあ、紗江の自己というのはその時どうなっているんだ?』
『出てきた扉に入れられるのではないか・・・』
『原理的にそういうことだよな・・』
ジャニスは京介がそんなことを考えているとは思いもしなかった・・・
当然の事がらジャニスとて、紗江の意識についての所存や居場所については予測済みではあった・・・
また、今までの傀儡とは違いこの「新垣 紗江」の出来は違いすぎる・・・
「一つの体に幾つもの傀儡のデータを入れ込んでいるのだから・・・普通ではいられない・・・か・・・」
『じゃぁ、始めるか・・小川 京介・・』
『あぁ・・・』
俺は紗江の横に座り、ヘッドギアを被った・・
横たわる紗江にも同じように装着されていた・・・ジャニスが装着を終えるとPCの前に行きキーボードを素早く打ち始める・・・
俺はそれを眺め、関係ない事を思った・・・
「あんなに早くキーボードを打ち込める人間はそうそういないんじゃないのか・・・カフェなんてやらないでプログラマーとかやった方がいいんじゃないのか・・」
『小川 京介、私は本業はカフェではない、プログラマーになるつもりもない・・ニヤリ・・』
『?!!』
『ヘッドギアをつけているだろう・・・こちらにお前の思想が見えてくる・・・』
『ヘタな事考えれねーな・・・』
『だからこそ、お前を守ることが出来る・・・心配するなギアを付けている間の時だけだ・・』
『あぁ・・』
俺はゆっくりと目を閉じ精神を穏やかな方向へと向けた・・・
無心で全てを受け入れるような気持にならないと駄目なようが気がしていたからだ・・・
『始めるぞ・・・』
『今日も結衣なのか?』
『呼び出してはみる、一つずつの解決が必要と考えるからな・・・だが、リアルな世界ではない具現化された世界だ、こちらの思うようにいかない事は覚えておけ、また、いつでもお前が危険な状況化になれば引き戻す・・いいな・・』
『あぁ、頼んだぜ ジャニス・・・』
「カチャカチャカチャ・・・・・」
『全てを受け入れろ・・・小川 京介・・・・』
「カチッ」
ジャニスが決定キーを押したと同時に俺は深い暗闇に引き込まれていった・・・・