あれから私の髪は容赦なく抜け続けた。朝起きると枕にびっしりと細かい髪が付いている。ほぼ丸坊主にしたものの、逆に細かい髪がチクチクと痛い。

翌日から家専用のニット帽を着用することにした。別に被っていなくてもよかったのだが、フローリングにポロポロと落ちている髪を見ると、副作用でわかっていたこととはいえどこか虚しくなる。あとは料理の際、髪が入っているのは身内とはいえ、やはり不衛生だ。

朝起きての日課が一つ出来た。
掃除の際に使うコロコロを頭に毎日していた。どうせ抜けていく髪、白い粘着面を細かい髪があっという間に真っ黒く覆った。抜け落ち始めた瞬間の大きなショックはない。今思えば、いつの間にかどこか心の中で知らず知らずのうちに覚悟が決まっていたのだろう。娘は全く動じなかった。させてさせてーと笑いながらしてくれたことが救いだった。

抗がん剤が始まった生活は、当初思い描いていたものより良いスタートを切った。