駅に置いてけぼりにしてしまった新田さんは、別会社の派遣さんだ。
最初の受付は若い方にとの暗黙の了解がある。
これは、うちの業界に限らず、だ。

新田さんは、普段はOLさんだろうと伺える。
内勤職務だろうと思ったのは、黒パンプスが痛そうな歩き方と、あまり袖を通していないのだろうスーツだ。長くて多い黒髪をキュッと結び初めての仕事に終始緊張している様子だったが、よく働いてくれたと思う。
お客様が重なる忙しい時間帯はうっかり走ってしまうようで、木田さんに何回か注意をされていた。

ランチに行った時に年齢を聞いたら27歳。
思ったより大人さんだった。
お昼時間がずれ込み、お腹の音が聞こえる位だった私と新田さんは現場近くの唯一の飲食店、居酒屋さんのお昼の和定食を10分で完食してしまった。
最も私は炭水化物抜きゆえ、少量と言っちゃ少量なのだけど。

しばしの談笑後、新田さんに「気にしないで携帯したり好きに過ごしてね、わずかな休憩時間だもの」と伝えた。「そんな、気を使って頂いて、、ありがとうございます!」と携帯。いや、スマホに目を落とす。
27歳か…初々しさを残しつつ、大人の女性である。

古びたその木造りのカウンターを見つめタバコを吸わして貰う。ふと左手の時計が目に入り込む。
あと、30分もあるな…と煙に目を移した。
 
27歳の私。何をしていただろう?
あぁ、あの時は息子が3歳だ。やんちゃ盛りど真ん中。目も手も離せなかったっけね、。唯一の楽しみは寝かせた後、一人で鑑賞するドラマ。ついこないだまでは私だって女の子だったし、今だって年齢的には恋愛盛りの年頃なのに…それはもう遠い昔みたいね…こんな事を想いながら、ドラマの主人公に自分を重ねて胸がギュっとしたり、ドキドキが止まらなかっりしてたっけ。
ドラマが終わると余韻に浸りながら、遠い空の下に帰った恋人を想い出していた。
今日の私をかき乱している、想い人。かつての恋人。

あの華やかで高揚した理美容業界のXmasで私は拓人に出会ったのだ。たくと。名前を思っただけで胸がキリリと鳴るようだ。
たくとは。あの煌びやかな時間の中でとても無邪気に。そして、それはそれは楽しそうに笑っていた。
洗練された空気の中、借り物のような大きめのタキシードはこっちの人ではないだろう事、まだ上京して間もないだろう事が見て取れた。
少しその場に浮いてるくらい全力ではしゃいでいる。よく笑うその少し高い声と純朴であろう無邪気な笑顔に私は釘付けになった。
まるで他の人間など一切いなかったように。この空間に拓人一人だけ存在しているように見えた。まるでスポットライトが拓人一人に集中しているかのように、眩しい光が拓人を覆うように、浮き上がって見えていた。一瞬時が止まっていたのだ。
これが俗に言う一目惚れだと知ったのはだいぶ後の事になる。


続く

ここまでお読み頂きまして、ありがとうございます。
この物語はフィクション、時々ノンフィクションです

夏 海子