「象潟(きさかた)や雨に西施(せいし)が合歓(ねぶ)の花」。芭蕉の奥の細道で詠われた一句である。西施とは古代中国の越の国から呉の国王に献上された絶世の美女で、救国の美女であったが後に傾国の美女の誹り受け長江で溺死させられた女性であることを知ると、芭蕉は象潟の水辺に咲く美しい合歓の花が雨に打たれ色あせて水辺に散る様を西施に重ね合わせた事が想像され俳句とは単なる自然の切り取りではなく、内なる世界観と外界との融合から浮かび上がる心情の表現であることを改めて知るのである。本種はマメ科であるが特徴的な蝶形花ではなく、枝先の多数の小さな丸い蕾から一つずつ糸がほぐれるように開花するのであるがオシベが特徴的で、まるで純白の絹糸が多数集まり上部半分がピンクに染まり、クジャクの尾羽状に広がる姿は正に絢爛優美である。糸状の先端に葯を持つオシベの中に単なる糸状のメシベが混じり、夕刻の開花と共に葉が閉じて重なる就眠運動が始まると、ススメガを誘引する桃に似た甘い芳香が漂よい出し神秘的空間が浮かび上がる。本種のクライマックスは正にこの黄昏時なのである。皆さんにもこのクライマックスを是非とも味わって頂きたい。