兄と弟

 

 家盛からの突然の宣言に驚く清盛。

 家盛は、幼い頃兄弟で登った木を見上げて言います。

「──この木の下でござりましたな。幼きあの日、この木から私が落ち、母上が兄上の頬を叩いた」

 

それまで二人は何の疑いもなく兄弟として育ってきました。


 

 

 それには宗子の並々ならぬ自制と努力があったことでしょう。

 しかし、木から落ち、血を流して泣いている我が子を見て、宗子は思わず平太を責めてしまいます。

 

「平次に何をしたのじゃ! 平次になにかあってみよ。おまえを許さぬ!」

 

 

 この時の和久井映見さんのこの表情。この目ね。

 

 事情がすべて分かってみている私でも凍りつくような思いがしたんだから、それまで彼女を母と信じて育ってきた平太はどれほどショックだったことか……。


 この日を境に平太は家から距離を置き、無頼に振舞うようになります。

 清盛にとってもつらい出来事でしたが、宗子にとってもこの一件は重い十字架となりました。


 あの日以来、宗子は清盛を我が子同様に愛せない自分を責め、懸命に清盛を嫡男として立てていこうとしてきました。

 聡明な家盛は優しい母が苦しみながら、懸命に清盛の母であろうとして努力し続けている姿をずっと間近から見ていたのです( ;∀;)

「このままでは母上は苦しみ続け、平氏は滅びるのみにござります!」

 誰よりも優しい家盛を奮い立たせたのは、誰よりも自分を愛し、慈しんでくれる母への思いでした。
 

父と息子

 

 一方、源氏の家でも為義と義朝の父子の間に小さな亀裂が入り始めていました。

 

 

「近く賀茂の祭りがあるであろう。内大臣様より道中の警護を命じられた。そなたも参れ」

という為義の命を、あっさりと断る義朝。

 

「申し訳ござりませぬがそれは。私は鳥羽の院にお仕えする身にて」

 

「何を言うておる! 我ら源氏ははるか昔より藤原摂関家に御恩を受けて参ったのだぞ!」

「往時のしがらみに縛られとうはござりませぬ」

 

 父子は激しく睨み合います。

 

「源氏の嫡男ならばきっと参れ!」
 きつく命じて帰って行く為義。

 不服げな義朝に、由良御前は為義の言う通りにするべきだ、内大臣頼長は峻烈な人柄で知られている、敵に回すのは得策ではありません、と助言します。

「おなごが口を出すでない!」
 と怒鳴りつける義朝。

 

 一瞬怯んだ由良御前でしたが、すぐに義朝を睨み返します。

「ならば何とために私を妻となされましたか! 都のことをろくにご存じない殿に、朝廷のこと、公卿がたのこと、もろもろお教えするためにござりましょう!」

 由良御前が言い返した途端、ちょっと後ろの方でめっちゃびっくりしてる正清が可愛い~(≧∇≦)

 これまでの他の女の人は、義朝を怒らせるようなことはしなかったし、怒鳴られたらおとなしく引き下がって言い返したりはしなかったんでしょうね。

 でもこれは由良御前が正しい。
 おとなしくハイハイ従ってくれる女がいいならそういう女性だけを相手にしていればいい。

 けれど、この先都でやっていくにはそれだけではいけない。
 地位もコネもあり、情報を持っていて、側で支えるだけでなく、隣りに並んで戦ってくれる妻がいなければ、田舎暮らしの長い義朝がとても都でのし上がっていくことは出来ないでしょう。

 正しい……んですけど言い方があああ(ノД`)・゜・。

「都のことをろくにご存じない」っていうのは義朝にとってめちゃくちゃ地雷なんですよね。
 
「殿はどうでも私と鬼武者を飢えさせるようなことはしないでくださりませ!」

 とどめとばかりに言い捨てて部屋を出て行く由良御前。

 


 そして今回はこの方もご登場。

 病の母のために懸命に働く健気な酒売り娘──のちに義朝との間に、あの源義経をもうけることで有名な常盤御前です。

 



 貧しく、粗末な身なりをしていてもその美貌は輝くようで、義朝も清盛も思わず見惚れます。

 子どものように言い争う二人を見てクスクスと笑う常盤。
 
 厳しく凛とした由良さまも素敵なんだけど、これは義朝みたいな人はこっちにいっちゃうよね……。

悪左府の思惑

 賀茂臨時祭の日がやって来ました。

 

 

 前関白・藤原忠実は、鳥羽院に

「よほど呪詛されたいとお見受けいたしまするな」

 と院が清盛の罪を赦しただけでなく、新たな舞人にその弟の家盛を起用したことを皮肉ります。

 

 同席していた頼長は、舞を舞う家盛の優美な姿に目を止めます。

 

 

 家盛が正妻の子でありながら、異母兄の清盛に出世でおくれをとっていると聞いた頼長の目が妖しく光ります。


 家盛が臨時祭で見せた舞の見事さは都人の間でも語り草になっていました。
 乳父の惟綱は誇らしくてたまりません。
 繰り返しその話をしては、家貞に呆れられています。

 ある日、忠正が興奮した様子で駆けこんできます。

 内大臣頼長が、貴族の公達にも劣らぬ家盛の舞を見て、屋敷に召したというのです。


 これまで武士を蔑み、平氏とは距離をおいてきた頼長が自分から歩み寄りの姿勢を見せたことで、人々の家盛への評価はますます高まります。

 それにしても、最初見たときは気づきませんでしたが、この場面ですでに忠正叔父さんが頼長と繋がりがあることがさりげなく描かれていたんですね(;´Д`)

 召し出した家盛を、頼長は手放しで褒めます。

 側に控えていた惟綱はここぞとばかりに家盛が、正室腹の男子でありながら、忠盛の血を引いていない清盛に後れをとっていることを訴えます。
 道理からいっても、人品からいっても家盛が跡継ぎとなるのが相応しいという頼長。

 家盛は、摂関家の後継者と目されている頼長の後見を得たと、胸を高鳴らせます。

 
 年明けて久安四年(1148年)一月。
 家盛は従四位下右馬頭に昇進しました。

 一方、清盛は半ば蟄居のような形で毎日ごろごろして暮らしています。

 姉を平氏の次期棟梁の妻として楽をして暮らすという目論見の外れた時忠は不服顔です。

 時子はおっとりと、
「良いではありませぬか。跡継ぎの座など譲って差し上げれば。光る君など、桐壺帝に誰よりも寵愛された更衣の子にも関わらず、帝の座は兄宮である朱雀帝に譲ったのですよ」
 などと言っています。

「……光る君が譲ったわけではなかろう」
 ぶすっとして言い返す清盛。

「それくらいに広い心をお持ちなさいと申しておるのです。さようなことをいちいち気に病むような御方はそもそも跡継ぎの器ではござりませぬ」

 相変わらず『源氏物語』に夢中の少女のような時子ですが、そのどんな時も変わらない、清盛が跡継ぎになろうがなるまいが気にしていないその様子が清盛の心を知らず知らずのうちに和ませています。
 

家盛の決意

 久安五年(1149年)二月。

 平氏一門は鳥羽院に熊野詣の警護を命じられます。

 祇園闘乱事件が久安三年(1147年)の出来事ですから、それから作中では二年の歳月が経っているわけですね。
 その間、清盛は目立った働きをすることも昇進することもなく、不遇をかこっていたようです。

 今回の熊野警護からも外されており、一門のなかではすっかり家盛を跡継ぎとするような空気が出来上がってしまっています。

 他家にいる経盛、教盛の兄弟も今回はじめて顔を見せます。

 

 

 


 教盛の方がキャラが濃くてなにかと目立つけど、お兄ちゃんは経盛くんの方なのね(^^;)

 経盛が三男で、教盛が四男。
 ご本人たちより、それぞれの息子さんの方が『平家物語』では有名ですね。

 二人は最近、都でも評判になっている兄の家盛に憧れているようです。
 脳筋キャラの教盛が、家盛のことを「次なる棟梁の器だ」と持ち上げたことで場は微妙な空気になります。

「もう良いではないか、兄上。ここではっきり家盛を跡継ぎを決めてしまえ」

 気まずい空気を破るように忠正叔父さんが言います。
 
 忠盛は難しい顔をして黙っていますが、家盛が、
「私も、そう定めていただきとうござります。兄上ではなく私を跡継ぎにすると。今この場ではっきりと、父上の口から言うていただきとうござります」
 というと、かすかに動揺をみせます。

「家盛、控えなさい」
 宗子がたしなめようとしますが、これが母と一門を救う道だと信じている家盛は止まりません。

「兄上は跡継ぎでないことを世に示すが、一門安泰に繋がると存じまする!」

「一門安泰だけを考えていて世の中を変えられるか!」
 清盛は言いますが、誰からも賛同を得られません。

 それはそうでしょう。誰も今の世を自分たちの手で変えようなどとだいそれたことは望んでいないのです。

 そんなだいそれた望みを掲げて世のなかの理に逆らうようなことばかりしている清盛を、このまま次期棟梁に座に据えれば、いつかきっと一門を禍に巻き込むに違いない。そう思うのは自然だと思います。

 以前の清盛だったら、こうなる前に家盛が自分が跡継ぎだと言い出した時点でさっさと譲っていたでしょう。

 けれど、前回、蟄居中に忠盛と話し、鳥羽院と対峙したことで自分が自分だからこそ出来ること、進むべき道がおぼろげながら見えてきた清盛にとって、ここで平氏の跡継ぎの座から降りるのは忠盛が、そして亡き母舞子が自分に託した思い、志を捨てるのと同じことでした。

 清盛はこの場で唯一、自分の思いを理解してくれるはずの忠盛を見ます。
 しかし、忠盛はこの期に及んでも黙っている……。

 忠盛のなかにも迷いがないわけではないんですね。
 それを見た清盛は、これまでにない孤独を感じ、

「……俺は降りる。家盛。跡継ぎはお前じゃ」
 言い置いてその場を去ります。

 とんだ見込み違いだと嘆く時忠。挙句の果てに今からでも時子を家盛の側女に出来ぬものかと言い出します。

 



「そなたという人は……!」
 叱りつける時子。清盛は、

「時忠の申す通りじゃ。出て行くなり家盛の側女となるなり好きにせよ」
 と投げやりに言います。

「なんと情けないことを! 一度我が殿と決めたものをそうやすやすと変えられるとお思いにござりまするか。どれだけ落ちぶれようと、あなた様こそわが光る君。それは生涯変わることはござりませぬ!」

 何か言い返すかと思った清盛ですが、黙ったまま目を潤ませて時子にすがりつきます。震える背中をそっと時子が抱きしめます。
 

砕かれた心

 家盛からことの顛末をきいた頼長は上機嫌です。

 一方で家盛は沈んだ顔をしています。
 そんな家盛の肩を頼長が抱き寄せます。

 前回との対面の時にはハッキリとは描かれていませんでしたが、どうもこの時点で頼長と家盛との間にはすでに「関係」があるみたいですね。次の台詞からもそれが伺えます。

「院が頼みにしておる平氏の財力と武力……そなたが跡継ぎとなればこれらは私のものも同然じゃ。院は我らに頼らざるを得なくなろう。……その時こそ藤原摂関家の栄華を取り戻す時じゃ」

 家盛はハッとなって頼長の側から飛びのきます。

「わ、我ら平氏は院に忠誠を誓うております。さようなつもりは……」

「今さら何を言うておる。そなたが清盛を蹴落としたのじゃ。院が頼みに思う清盛を」

 頼長の狙いは、王家の血を引き、今の世のあり方に何かと歯向かおうとする目障りな清盛を排除し、平氏を今まで通りの「王家の犬」に止めおくことでした。

「家盛よ。まことに私がそなたを棟梁の器と思い、引き立てたと思うておるのか。そなたが清盛よりも優れておるのは……はるかに御しやすい男ということだけじゃ。見目も申し分ないしのう」

 家盛を抱き寄せる頼長。

 

 



 本来ならば武士である家盛が頼長を振り払うことなど造作もないでしょう。
 けれど、頼長の声が、言葉が呪縛のように家盛に絡みつき、体の動きを奪っていきます。

 頼長が認めていたのは、むしろ兄・清盛の方でした。
 清盛の破天荒さ、常識にとらわれない型破りなエネルギーを頼長は、厭い、蔑みながらも、自分の邪魔になる者として恐れたのです。

「もう遅い。おのれこそが嫡男。おのれこそが次なる棟梁。その欲に目が眩み、そなたは一門を売ったのだ……」
 悪魔のように耳元に囁きかける頼長の声に、家盛の目からすっと光が消えていきました。
 

旅立ちの朝

 

 そして熊野詣の警護に出立する当日の朝がやって来ました。

 早朝、宗子が庭を見ると桜の木の下に家盛が一人で立っていました。

「いよいよ、出立じゃな。しかとつとめよ」

 宗子が声をかけると、家盛は母を振り向き微笑みました。

「……嫡男かそうでないか……さようなことはどうでも良かった。私はただ、母上に笑うて欲しかった。母上の笑うお顔を……位を授かった、跡継ぎになったとお伝えしたときに、ただ当たり前の母として喜んで頂きたかった」

「家盛……?」

「兄上とも……母上とも……当たり前の兄弟、当たり前の母子でいたかった……」

 花びらの降りしきる桜を見上げる家盛の目には涙が光っていました。

「母上。せめて帰ってきたときにはせめて一度だけでも──当たり前の母として笑いかけて下さりませ」

 そう言い置いて家盛は身を翻して去っていきます。

「家盛……家盛!」
 胸騒ぎをおぼえた宗子が名を呼びますが、家盛が振り返ることはありませんでした。

 そしてこれが母子の今生の別れとなったのです。

 

 熊野詣の帰途。

 馬上で意識が朦朧となった家盛はそのまま落馬します。

 

 薄れゆく意識のなかで家盛が呟いたのは「兄上……」という言葉でした。

 というところで今回もおしまいです。

 家盛ーーーーーーーー(ノД`)・゜・。
 

まとめ

 いやあ、この回は見ててつらいですね。
 家盛に初めてスポットライトが当たった回が大好きな兄上との決裂回って。

 何がつらいってこれ、家盛はまったく清盛への悪意とか妬みとかではなく、棟梁になりたいっていう私心でもなく、母のため、一門のためだと信じて立ち上がったってことなんですよね。

 その結果、悪左府さまにつけこまれて……ううう(´Д⊂ヽ

 最後に家盛が立っていた桜の木は、あの日、家盛が落ちて怪我をした木ですよね。

 あの日、あの出来事があるまでは、清盛と家盛はお互いを疑うことなく実の兄弟だと信じていました。
 すべてが「当たり前」ではなくなってしまったその場所で、願うことならそのすべてが当たり前だった時に戻りたいと願う家盛が切ない……切なすぎる……。


 この頼長と家盛がアハン(*´ω`*)な関係だったっていうのは史実的根拠はないんですけど荒唐無稽でもないんですね。

 というのも、これとほぼ同時期に義朝の異母弟の義賢(木曽義仲のパパン)が頼長の「ご寵愛」を得ているのが他ならぬ頼長自身の日記に書き残されているからです。
 

 ちなみにこの時代……というかわりとどの時代も、貴人の男色趣味というのは普通のことでした。

 まあ、それを日記に書くのが普通だったかどうかは分かりませんが(~_~;)


 しかし今回を見ていると、これはやっぱり忠盛パパが悪いよなあ~と思ってしまう。
 志は分かるけど、まわりにそれを理解してもらう努力をしてなさ過ぎでしょう。

 客観的にみて清盛の方を棟梁に推す、納得のいく理由がまったく見当たらないもん。
 そりゃあ一門の皆も反発するし、家盛も清盛もつらいよなあ……。

 そして今回は叱咤し励ます義朝の妻、由良さま。
 慰め寄り添う清盛の妻、時子ちゃん。

 



 それぞれの対比も印象的でした。

 どちらも一門のなかで浮き上がっている状態は一緒なのですが、そのつらい状況のなかで清盛と時子が夫婦としての絆を深めたのに対し、義朝には常盤ちゃんが登場してしまいましたね(;´Д`)

 しかし、どんな時も迷わずに「あなたが私の光る君」と言える時子ちゃんは可愛いけど強いな!
 時子ちゃんが今、清盛の側にいてくれること、きっと明子さんも喜んでくれていることでしょう( ;∀;)