北面の武士

 北面の武士として院の御所に出仕することになった清盛。

 良家の子息のなかから、文武両道、容姿端麗の者を選りすぐって集められた彼らは、武士とはいえ和歌を詠み、音楽を嗜み、身だしなみにも余念がありません。

 ある日、鳥羽院の后、璋子が外出するということで警護を命じられた北面の武士たちは先を競うようにして鏡の前へ飛んでいき、身支度を整え始めます。

「これのどこが武士の華なんだ」
 どうにも馴染めない清盛は不満顔です。

 璋子が女房たちと歌合わせをする間、庭先に控えている清盛たち。

 璋子の一の女房の堀河は、宮中でも名高い歌人です。

《長からむ 心もしらず わが袖の 濡れてぞ今朝は ものをこそ思へ》

 堀河の詠んだ歌に女房たちは「なんと艶めかしい……」とうっとりと聞き惚れます。

 清盛にはチンプンカンプンです。

 そのうち女房の一人が、「殿方が今の歌をどう感じたか聞いてみとうございます」と言い出し、北面の武士たちに感想を求めます。
 
 他の武士が無難に、歌の出来を称えるなか、指名された清盛は、
「私も、幼い頃はよく、朝起きると乳父に『濡れているぞ』と言われたもので……」
 と言って女房たちを呆れさせます。

 こんな時、気の利いた返答が出来るのも北面の武士のつとめのようです。

 そんななか、佐藤義清はもとの歌を見事だと思うと言いながらも、

「長からむ、と始めたならば《我が袖》よりも《黒髪》としたらいかがでしょう」
 と指摘します。

 驚いた堀河が、
「その場合、《濡れてぞ》はいかがする?」
 と尋ねると、義清は臆することなく
「《乱れて》としてはどうかと」
 と答えます。

《長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れて今朝は ものをこそ思へ》

 後朝の寝乱れた髪で恋人を思う美しい情景が目に浮かぶような見事な歌です。

 堀河も、義清の才を認め璋子は満足そうに微笑んで「そなた、名はなんと申す?」と尋ねます。

「恐れ入ります。佐藤義清と申します」

 堀河は、古典の教科書にも出てくるあの「待賢門院堀河」だったんですね( ゚Д゚)
 百人一首にこの義清が訂正した後バージョンの歌が収められています。

 実際は院の后とその女房が、庭先にいる警護の武士に顔を見られるような場所にいること自体があり得ないですし、ましてや后が直々に武士に声をかけるなんて思いきりフィクションなんですが、この作品ではわりとこういった場面が見られますね。

 フィクションなので細かいことはいいのですが、たまちゃんみたいなのをそこらへんの男の目につくところに置いておいたらトラブルのもとやで汗

 

 

無垢ゆえの残酷

璋子に前回、思いっきり心をへし折られていた鳥羽院。

 懲りずにまた璋子のもとへ来ています。

 寝所で髪を直しながら、義清が詠んだ「黒髪の……」の歌を口ずさむ璋子。

 燭台の灯りのなかに浮かぶ美しいその顔を見ながら、鳥羽院は、
「一言だけでよい……詫びてもらえぬか」
 と言います。

「詫びる? 何をでございましょう?」
 キョトンとするたまちゃん。

 この時点でやめときゃいいのに、

「帝を……顕仁を産んだことをじゃ。先の院と密通し、不義の子を産み、朕の子として帝位につけたことを詫びてはもらえぬか。さすればすべて忘れる。そなたを許す」

 と言う鳥羽院。

 激しい痛みに必死に耐えるようにして絞り出したその言葉に、璋子はあっさりと頷き、
「上皇さま。わたくしがわるうございました」
 と頭を下げます。

 一瞬のためらいも、少しの後ろめたさもなさそうなその顔を見て、鳥羽院のなかで張りつめていた何かが切れます。

「璋子……そなたは……そなたという女は……」
 鳥羽院は、泣き笑いのような顔をしてよろめきながら寝所を出て行きます。

 一部始終を御簾の外で聞いていた堀河は、「なんということをなさったのです!」と璋子を諫めます。

「なぜお認めになったのです。なにゆえ、上皇さまの思い違いですと申して差し上げぬのですか」

 そう言われても璋子はなぜに鳥羽院があのように取り乱し、堀河が怒っているのかが分かりません。一言詫びて欲しいと言われたから、言われるままに詫びただけなのに。

「堀河。わたくしがここにいるのは、后のつとめゆえではないのか?」
 美しく空虚な瞳のまえに堀河は言葉を失います。

 

この「平清盛」はもちろん平家のお話なのですが、ところどころに「源氏物語」のエッセンスが散りばめられていますね。

 

 冒頭が主人公の両親の悲恋と生母の死から始まるところもそうですし、この璋子さまのキャラクターには、晩年の光源氏に降嫁した女三の宮が頭をよぎります。

 

 美しく高貴で無垢。それゆえ空虚で人の心が分からない女三の宮。

 いつも側に猫がいるのもそのイメージと重なります。

 

 ただ、この場合の悲劇は光源氏の役どころである鳥羽院が心の底から璋子を愛していることなんですよね……。

 

忠盛、昇殿

 そんな折、忠盛が鳥羽院の得長寿院に寄進するために造らせていた観音堂が完成したという知らせが届きます。


 御堂のなかに居並ぶ千体の観音像。
 鳥羽院は、御堂に一歩足を踏み入れるなり、打たれたように立ち尽くしその荘厳な光景に見入ります。その目にはいつしか涙が溢れていました。

 忠盛は、治天の君となってもいまだ埋められることのない鳥羽院の心の隙間に入り込むことで、着実に信頼を得ていきます。

 観音堂の落成と千体の仏像を寄進した功績により、忠盛は内の昇殿(内裏へ昇殿が出来る権利)を許されることになりました。

 これは武士という身分の者にとっては前代未聞、破格の待遇です。

 口々に祝いの言葉を述べる一門のなかで、駆け込んでくるなり感極まって泣いてしまう忠正叔父さんが可愛い( *´艸`)!!
 なにかと清盛にあたりのキツイ叔父さんですが、それもすべて尊敬する兄忠盛と平氏一門のことを思うがゆえなんですよね~。
 
 忠盛が殿上人となった知らせを受けてヤケ酒を煽る源氏の棟梁の為義。



 そんな父の姿を見た義朝は苛立ち、
「源氏が平氏に後れをとったは、ひとえに父上の不甲斐なさゆえにございましょう! 父上が不甲斐ないゆえ私は北面にも入れず、同じ年頃の者たちに後れをとったのです!」
 となじります。

 義朝の乳父でもある鎌田通清はそんな義朝を諫めますが、為義は
「義朝の申す通りじゃ。すべてはわしの不甲斐なさゆえじゃ……」
 と肩を落とします。

 忠盛が殿上人となったことは、他にも波紋を広げていました。

 鳥羽院の引き立てで政界に復帰した前関白・藤原忠実は、「武士が昇殿を赦されるなど未曾有のこと」と鳥羽院の判断を短慮だと諫めます。

 

 

が、忠実の狙いが皇族から政治の実権を、藤原摂関家へ取り戻すことにあることを見抜いている鳥羽院はそれを一蹴します。
 院が摂関家の力を押さえ込み、この世の頂きに君臨するには忠盛の持つ財力と武力が必要不可欠でした。

 鳥羽院は、忠盛を引き立てることで虎視眈々と再起をはかっている忠実を牽制しようとしたのです。

 
 藤原家成主催の忠盛の昇進を祝う宴が開かれます。
 
 しかし、そこへ忠実と、その息子の関白忠通がやって来ます。

 忠通は、「伊勢平氏風情が我ら藤原摂関家の招かれた宴に連なるとは……」とあからさまに侮蔑の目を向けますが、父の忠実は、
「武士でありながら殿上人となられたのは、忠盛殿がそれに相応しい才覚をお持ちだからじゃ」
 とこの場で、ひと挿し舞を舞うように所望します。


 万座の場で恥をかかせようという魂胆をみてとった家成は、
「忠盛殿は、この宴の客人にて……」
 と止めようとしますが、忠盛は
「忠実さまの仰せとあれば」
 と恭しく一礼して舞台の中央へと進み出ます。

 

 忠盛の舞は、気品があり、堂々とした見事なものでした。
 
 清盛のとなりで見ていた佐藤義清も感嘆の声を洩らします。
 内心誇らしいものの、素直に顔に出せずにむくれたような顔で見ている清盛。

 ところが、急に楽の音の調子が乱れます。

 自然と忠盛の舞も乱れてしまいますが、それを見た貴族たちはここぞとばかりに嘲笑しながら、忠盛に盃の酒を浴びせかけます。

 顔色ひとつ変えずに舞を続ける忠盛でしたが、酒で濡れた舞台で足が滑り転倒してしまいます。
 大喜びで笑いはやし立てる貴族たち。

 清盛は蒼白になって飛び出そうとしますが、義清に止められます。

「もうそのくらいでよろしいでしょう!!」
 家成が怒りを堪えながら止めに入ります。

 四方から酒を浴びせられてびしょ濡れになった忠盛は、その場に手をつき、深々と頭を下げた。

「未熟な舞でとんだお目汚しとなり、申し訳ござりませぬ。皆さまのお言葉を肝に銘じ、ますます精進いたしまする」

 小気味よさげに嘲笑する貴族たちのなかで、忠実ひとりは忠盛の肝の太さ、度量の大きさを感じ取っていました。
 これを放置しては藤原摂関家にとっての大きな脅威と考えた忠実は、源為義を呼び、源氏を再興したくば忠盛を斬れと命じます。


 父が貴族たちに嘲笑されたことが我慢ならない清盛。

 その夜、豊明節会のために参内する忠盛に宋剣を持っていくようと言います。

「この剣を挿して寄らば斬るの気構えで堂々とご昇殿下さいませ!」
 という清盛。

 尊敬する偉大な父が、何も出来ないへなちょこ貴族たちに馬鹿にされているのが悔しくてたまらないんですね。
 なんだかんだとパパが大好きな清盛( *´艸`)

 しかし忠盛は、「殿上での帯刀は禁じられておる。飾り刀で参る」と言って涼しい顔をしています。

 怒った清盛は、「父上は強き武士の心の軸を失ってしまわれたのですね!」と喚き立て、「父上は筋金入りの王家の犬だ!!」と捨てセリフを残して飛び出していきます。


 腹立ちのおさまらない清盛が、賀茂の川原でイライラしながら寝転んでいるとそこへ義朝がやって来ます。

「北面の武士ならば暇を惜しんで鍛錬せよ」という義朝。
 清盛は北面の武士などおまえが思うほどいいものではない、と言い返します。

「父が殿上人であることのありがたみが分からぬか!」
 と清盛を殴りつける義朝。

「父が殿上人であればこそ、見たくもないものを見せられる情けなさがおまえに分かるか!!」
 清盛も即座に言い返し、ふたりはつかみ合いになります。

 そこへ為義の郎党の鎌田通清が慌てふためいた様子でやってきます。
 通清は、義朝に為義が平忠盛を斬るつもりだと告げます。

 それを聞いた清盛は、弾かれたように走り出します。

 

殿上の闇討ち

 夕闇が落ち、内裏に次々と殿上人たちが参上してきます。

 

  為義は、宴席へと続く通路の脇に身を潜め忠盛が来るのを待っていました。 

 やがて衣冠姿に身を包んだ忠盛がやって来ます。 

 

 太刀に手をかけてその背後に忍び寄る為義。  

忠盛はその気配に気づいていました。

 

 「殿上での帯刀はご法度にござりますぞ」 

 ただならぬ殺気に忠盛は、為義が何のためにここに来たのかを悟ります。

 

  いくら前関白の命にしたがったとはいえ、内裏の内で太刀を抜き、殿上人である忠盛を斬ったとなれば為義もただで済むはずはありません。

  為義はそれを知ったうえで、自分の命を賭けて源氏の再起をはかり、我が子義朝の前途を開こうとしたのです。

 

  忠盛は「摂関家の庇護など、そんないつまで続くか分からぬもの頼みでは、源氏の力を取り戻すことは決して出来ぬ」と諭します。 

 

 そうして飾り太刀をおさめているはずの鞘からすらりと、銀色に輝く本身の太刀を抜き放ちます。

 

  「為義殿。斬り合いとならば源氏も平氏もここで終わりぞ。源氏と平氏、どちらが強いか。それはまだ先にとっておくことは出来ぬか。……その勝負は、武士が朝廷に対し、十分な力を得てからでもよいのではないか」 

 

 篝火を浴びて、静かに言う忠盛の気迫に圧倒される為義。 

「忠盛殿……いったい、何を考えておる?」

 

  「わしは……王家の犬では終わりたくないのだ」

 

 刀をおさめ、悠然と立ち去っていく忠盛の背中を為義──そして物陰に隠れてその様子を見ていた清盛と義朝は声もなく見送ります。

源氏の父 平氏の父

 平清盛は「父と子」の物語です、というのを以前に書きました。

 もちろん、その他にもさまざまなテーマが語られていますが、本作のなかにはたくさんの「父と息子」の関係が出てきます。

 この「殿上の闇討ち」の回では、平清盛、源義朝。これからドラマを担っていく二人の中心人物の父の姿が鮮やかな対比をもって描き出されています。

 強く逞しく、威厳に満ちた「理想の父」として描かれている清盛の父、忠盛。

 それとは対称的に、泥のなかから懸命に這い上がろうと足掻きながら、なかなかうまくいかない、不遇で情けない人物として描かれている義朝の父、為義。

「義朝、すまぬ。また忠盛にしてやられた……」
 悄然とする為義に、義朝は言います。

「やられれば良いのです。父上がやられた分はわたしがやり返します。父上がやられるほどに、私は強うなる。強うなって……きっと父上をお守りいたします!!」

「馬鹿者……おまえに守ってもらうほど、まだわしは老いてはおらぬわ」
 そう言いながらも、為義は息子の頼もしい成長に目を潤ませます。

 その様子を物陰から見ていた鎌田通清も、感極まって咽び泣きます。


 一方、内裏から退出してくる忠盛を一晩中、外で待っていた清盛は、帰ってきた父に尋ねます。

「……いつから考えておったのですか。王家の犬で終わりたくないと」

 次の! 忠盛パパの台詞が!! めっちゃくちゃ泣ける!!!!


「……それはな、清盛。おまえを我が子として育てると決めた時だ」

「赤子のおまえをこの胸に抱き、平太と呼びかけたとき──わしの心に揺らぐことなき軸が出来たのだ」



 うわーーーーーーーん!!(ノД`)・゜・。父上ーーーーーーーー!!!!

 こんなん泣くでしょ!!

 これまでずっと一門のなかで、血の繋がらない子としての疎外感に苛まれながら育ってきた清盛。

 そりゃ宗子ママは表面上は優しいし、忠盛パパも自分を嫡男として扱ってくれている。
 でも、それでも、いやそれだけにつらかったと思うんですよ。

 自分がいなければ、平氏の家はもっと皆幸せだったんじゃないのか。

 優秀で気立てのいい家盛が、正室腹の嫡男として跡を継ぎ、忠盛を支えていずれはその跡を継ぐ。それがあるべき姿なんじゃないのか。

 自分の存在は皆を不幸にする異分子なんじゃないのか……って、ずっと思ってきたと思うんですよ( ;∀;)

 家に寄りつかず、無頼を気取っていたのもきっとその事実にまともに向き合うのが怖いから。
 
 もし自分が父のような武士になりたいと願い、一心に鍛錬に打ち込み努力を重ねても、結局どこまでいっても何をしても実子の家盛にはかなわないんじゃないか。
 
 何をどうしても自分が家盛のように、無条件に皆に愛され、受け入れられることはない。

 それを清盛は、第一回で宗子ママに平次の怪我を責められた時に悟ってしまっているんですよね。

 そりゃあ素直に甘えられないし、素直に父上のようになりたいって言えない。
 また拒まれ、傷つけられるのが怖いから。

 そんな清盛に、尊敬する父上が言ってくれたわけですよ。

 尊敬してやまない、偉大な父を、父たらしめているその心の軸の根元にあるのは清盛、おまえだと。

 これは泣ける( ;∀;)

 一瞬、虚をつかれたようにぽかんとしてそれからジワジワと心を打たれて目が潤みだす清盛の心情をあますことなく表現してくる松山ケンイチさんの演技力、ほんとにすごい!

「清盛、殿上がおまえが思う以上に面白きところぞ」

 楽しげにいって歩き出す忠盛の背中を嬉しそうに追いかける清盛。
 というところで今回はおしまいです。


 もう~今回は、というか今回も忠盛パパ劇場!!

 

 カッコ良すぎか!!!( ;∀;)

 

 

大河ドラマにおける主人公の父親は、主人公が最初に超えるべき壁っていうのは王道セオリーなんですけど、本作ではこの忠盛パパがかっこ良過ぎて、ほんともう超えられる気がしない!!

 この作品を名作たらしめているのは、主演の松山ケンイチさんは言うまでもなく、前半パートをがっちり骨太に支えた中井貴一さんの忠盛の存在があってこそだと思います。

「平忠盛なくして『平清盛』はなかった!!」

 ほんとに忠盛パパかっこいいです。素敵、最高、好き!!!

 そして忘れてはいけないのが、今回のもう一人の父、小日向文世さん演じる源為義ですよね~。
 
 義朝は、頼りなく不甲斐ない父が、命がけで自分を世に出そうとしてくれていることに気がつきました。
 そんな父を守り、悲願である源氏の再興を果たすため、義朝はより強く、大きな力を求めて生きていこうとします。

 この回の義朝の台詞があとから巨大なブーメランとなってすべてをぶっ倒しにくるんだ(ノД`)・゜・。
 でもそれはまだ先のお話です……。

 前半の主人公ふたりの生きていく指針のようなものが、ふたりの父を通してはっきりと打ち出された回でしたね。

 軽々しくこの言葉を使うのはどうかと思いますが、前半きっての「神回」だと思います。


 しかし毎回どんだけ伏線を盛り込んでくるんだ~。
 藤本有紀さんの脚本、ほんと半端ない( ;∀;)

 

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