遅ればせながら、録画しておいたフジテレビにて414日に放送されたスペシャルドラマ『黒井戸殺し』を観た。


実は、新たなクールが始まり、ハードディスクの容量が底を突いてきたので、容量を空ける為にさほど期待もせずに仕方なく観始めた。

そのせいもあったか観始めたが最後、物語にどんどんと引き込まれ、観終わる頃には心を鷲掴みにされていた。


素晴らしかった!この一言に尽きる。

さすがは三谷幸喜さんだ。一昨年の『真田丸』以来、三谷作品からは遠のいていたので忘れかけていたが、ラストに向かって畳み掛けるようなセリフ回し、登場人物達の動き、そして全ての伏線が回収されていく爽快さ・気持ち良さ、「ああ、そうだ、これこれ!」と、またしても三谷さんの術中にまんまとハメられる格好となった。

今回は原作ありきという制約の中でも三谷さんの超絶技巧が遺憾無く発揮されていて、本当にさすが!としか言いようがなかった。


不勉強で申し訳ないが、私は原作は全く知らなかった。

アガサ・クリスティーという名前くらいは聞いた事はあったが、作品は一つとして読んだ事がない。

(本放送からは1週間以上が経過しているので、ネタバレでも問題無いだろうと踏んで書かせて頂く)

とは言え、犯人は大泉洋さん演じる柴医師だったが、それを最後に知って驚いたか、といえば、そうではない。手前味噌でも何でもなく、私は最初から柴医師が犯人だろうな、と思っていた。

そういう演出なのだろうが、大泉さんの演技には最初からどことなく影があった。

また、柴医師の手記を読み進めるという手法で物語は進展していき、人が亡くなる時、いつもそこには柴医師が居たのだが、その際の柴医師自身の行動が不明瞭に描かれていた。


誤解がないように。アガサ・クリスティーは叙述トリックを用い、また今回のドラマでも語り手が実は犯人、という読み手や視聴者を最後の最後で驚かせる、言わばどんでん返しを楽しんで貰うという手法は素晴らしいと思う。そこは純粋に敬意を表する。

ただ私は分かってしまった、というだけの、あくまでも個人的見解に過ぎない、というだけの事である。


それでも、私は驚いた!!

ラストだ。

主人公である野村萬斎さん演じる勝呂が柴医師に自殺を促す、そこに驚いたのではない。

エンドロールの直前、正に“どラスト”のシーンだ。

勝呂の表情は何かを深く考えているようでもあり、何かに悶え苦しんでいるようにも見えなかっただろうか。

更にその一つ前のシーン。

柴医師は「バルビタール(睡眠薬)に始まり、バルビタールに終わるのだ」と語った。

勝呂は暗にそのバルビタールを飲んで死ぬよう柴医師に言い聞かせたが、まさかそのバルビタールを飲まされたのは勝呂の方だったのか!?

そして戻って最後のシーン。

勝呂の前にはティーカップが一つ。バルビタールに終わる、と言った柴医師は果たしてそこにそれを入れたのかどうか

まるで強烈な眠気と闘っているかのような苦悶の表情を浮かべる勝呂から、それを察するのは難くない。


とまあ、原作を知らない私にとって以上は想像でしかないが、もしかしてそうなのかも!と分かった瞬間、私は鳥肌が立った。

本当に「凄い!!」と思った。

よって、観終わった時、もう私の心は鷲掴みにされていたのだ。

面白かった、観て良かった。心底そう思えた。


野村萬斎さんもさる事ながら、大泉洋さんの演技も素晴らしかった。

どちらかと言えばコミカルな演技に定評のある方だが、それが抑えらた時のシリアスな演技には倍以上の凄みがある。

何とも言えない切なさと諦観の念が込められたような表情は、大泉さんにしか醸し出せないものだなと思った。

また、余貴美子さんや寺脇康文さん、遠藤憲一さんや吉田羊さんなど、脇を固める役者さん達もいちいち豪華で、本当に見応えがあった。

そういった意味では脚本、キャスト、演出等々が見事にマッチした素晴らしい作品だったと思う。


という訳で、ハードディスクの容量を空けるべく消そうと思って観たのだったが、これではどうやら、まだまだ空きそうにない。