午後十七時。足早に退勤し逃げるように会社を出ると外は陽が落ち始め、あたりは薄暗くなっていた。
  秋の肌寒さに加え、陽が落ちるのが日に日に早くなると本格的に冬の到来を予感させる。 


  会社の最寄駅に向かい待ち合わせ場所に着くや否や、スマホをカバンから取り出し液晶に目をやった直後、背後から肩を叩かれ、飛び上がりそうになる。


  そこには「よっ!」と右の掌を由紀恵に向けている早坂真帆(はやさか まほ)がいた。



「びっくりしたあ。もうついてたんだね。」



「久しぶりに駅前で買い物しててさ。まあ、何も買わなかったんだけどねー。」 



  そう言いながら真帆は歩き始めた。


  真帆とは中学生の頃、所属していた美術部で仲良くなり、中学、高校と行動を共にした親友だ。

  金曜日の駅前は一週間の長い仕事を終え、労働という束縛から解き放たれたサラリーマンやOL達が意気揚々と闊歩している。まさに''華の金曜日''というやつだ。


  秋の空に夜の帳が下りてもなお明るい繁華街を歩き、良さげな韓国料理の居酒屋に入った由紀恵たちはジョッキに溢れんばかりに注がれたビールで乾杯をする。


乾いた喉をビールが一気に通り過ぎ潤していく。どうしてこんなにも仕事終わりのアルコールとは格別なものなのだろうか。


  半分を飲み干しジョッキを置いたところで、酒が入るまで我慢していた近況報告や、思い出話に花が咲く。



「今日、旦那が休みで本当によかったよ。子どもの迎えも夜ご飯も任せてきちゃった。」



「真帆もすっかり母親になったねえ。」



 土日になかなか休みが取れない旦那の不満を溢しつつ、こういう時は平日休みでありがたいと自嘲的に言いながらキンパを口に運ぶ真帆。



「由紀恵は最近どうなの?いい人いないの?」 



 出た。お決まりの質問だ。毎度思うが、女と言うのは恋人がいない人間に対して、この手の質問をせずにはいられないのだろうか。


  一瞬脳裏を掠める不満を振り払いながら由紀恵は答える。



「いやあ、相変わらずいないんだよね。職場はおじさんばっかりだしさ。この歳になると出会いもなかなかないしね。」



「あー。前にも言ってたねそれ。でもさ、最近はマッチングアプリとかもあるじゃん?そういうやってみたらいいじゃん。そろそろ結婚も考えなきゃいけないんだしさ。」



そう言われ、由紀恵は耳にタコができた気分だった。



その話は今朝、嫌というほど聞いたばかりなのに————。





第二の人生⑤へ続く