えなりかじきの競馬日和 -2ページ目

202020

風はまだひんやりとしているが、春の陽気に誘われ、‪ ‪1人で旅に出た。

美味しいごはんとお酒を楽しみ、シャークがマスコットのホテルに宿泊した。


部屋番号は999と縁起がいい。


外観とは違い部屋は古風な内装だ。

ブラウン管のテレビ、そしてカセットレコーダーが置かれている。

レコーダーはまだ使えるようだ。

色がところどころはげてはいるが、ニドヌリされた跡がある。

大事に使われていたのだろう。



レコーダーの中にはカセットテープが入っている。

再生スイッチを押すと、学生の時に流行ったキャンティのうたが流れだした。

ギター1本で歌手が唄っている。

無精髭で足の長い歌手の顔が浮かぶ。


学生時代はショーケンに憧れた。

きっかけはハッキリ覚えていない。

PYG、太陽にほえろ、傷だらけの天使

とにかくショーケンを追いかけていた。


気付いたらスマートフォンでショーケンを検索していた。

画像、動画、人生がネットで簡単に調べられる。

すごい時代になったものだ。


このまま行けば、将来は動物がちがう生き物に、例えば人間がネコになりたいとお店に行けば、変身できるのではないかと、馬鹿な事を考えてしまった。


家にいる猫の茶茶が猫の毛を宙に飛ばすくらい笑っているに違いない。



コンビニで買ったビールを一気にあける。


コンビニの袋にはビールがあと1本入っているが、一緒に食べようと思っていたアレがない。


酔っぱらうといつもこうだ。

万事休すと言ったところか。


カセットレコーダーはオートリバースし、音を出すのをやめた。

B面は何も入っていないらしい。


ベッドから起き、部屋にある小さな窓から見える小さな夜を眺める。


満月ではないが月の光が町を照らしている。

電車、車の音も聞こえない。

聞こえるのは外を眺めながら、思いついた事を無理矢理歌にして、口ずさんでいる自分の声だけだ。


思いついたわりにいい歌だと自画自賛した。

タイトルをつけるとしたら、

「あなたのための歌」

がピッタリだ。


もっと飲んだら今以上のいい歌ができるかもと考えたが、酔っぱらう自分からはもう何も生まれない。


彼女がいた。

一緒になって7年、結婚も考えていた。

幸せだった。

少し抜けてるところはあったが、完璧と思える女性だった。


だが突然、いなくなり、連絡も取れなくなった。

理由が分からず、ただただ悲しみにくれていた。

今も連絡は取れないままだ。


愛とやらにせっつかれていたのは気のせいだったのかもしれない。


何も考えず、旅にでたが、ほんとは理由を探すための旅をしていたのかもしれない。


カーテンを閉め、フラついた足でベッドにたどりつき、目を閉じた。


スマートフォンの目覚ましで目が覚めた。

いつものくせで、セットしていたみたいだ。

カーテンを開ける。


光が差し込む。

久しぶりに飲んだからか頭が痛い。

机には袋に入ったビールがあり、カセットレコーダーは止まっていた。


静まりかえった夜とは違い、いろいろな音が飛び交っている。


荷物をまとめ、シャークのマスコットのホテルを出た。


いつもの風景が目の前にあった。