腕時計とは別の夢がございまして、、、
それは小説なんですよ。
以前に書き貯めた数本の作品を改訂しながらアメブロに投稿する事にしました。
どうぞよろしくお願い致します。
蝶能力ファイター静夫
【湯飲み】
くさ
がり
とろ
ひも
赤貝
、
、
、
綺麗な江戸文字で沢山の寿司ネタが書かれている。
高さは15センチもあろうか、樽のような形の大きな湯吞み茶碗だった、いつものようにかなり濃いめに入れた緑茶が湯気を上げている。
ずいぶん昔、結婚した当時に寄った寿司屋の湯飲みである。
売り物ではないんですよ、、という大将に食い下がりいつもは控えめな妻が「どうしてもこれが欲しいのです」珍しく言葉に力を込めてこの湯飲み茶わんを欲しがったシーンが思い出される。
自分が肉体労働者だから妻が大きな湯吞を欲しがったのか、、もう30年も前の話なので静夫はこの湯飲みが我が家にやってきた理由が思い出せなかった。
昭和40年代に建てられた木造建築。
まだ若かった静夫が、「この庭が気にいった、産まれてくる子供とキャッチボールができる」と思い。
自らの蓄えと、会社からの融資を得て東京都内に中古住宅を購入したのだ。
当時、2人は新婚であった。
以後は修繕に継ぐ修繕を経て、この古い家に夫婦2人が住み暮らしているのである。
5月。
心地良いそよ風が開け放った窓から流れ込み、湯吞から立ち上がる湯気を揺らしている。
「あなた、、羊羹食べる?」
妻が台所から声をかける、うん。と返事をする前に包丁で羊羹をカットする妻の後ろ姿が見える。
これはいつものシーンである。
もう30年も連れ添っているのだ、夫が羊羹を待っているのは、言わずと知れた、、事なのである。
自分の分のお茶と羊羹も用意して妻の智美がソファーの隣に座り静夫に声をかける。
「もうすぐだね」
「うん。でも初産だから予定日よりも遅れるんだろう?」
「あら、、男のくせにそんなこと知ってるの?」
去年結婚した長男にもうすぐ子供が産まれる、静夫から見れば、子供が子供を産むようにも感じられる。
「ふ~、、俺もおじいちゃんになるのか、、」
「ふふふ、私だっておばあちゃんになるのよ」
たわいもない普通の家庭の会話がそこにあった。
この時、この物語の主人公、草野静夫は54歳。
妻の智美は52歳。
夫は勤めが無い日はほとんどを自宅で過ごす。
好物の甘い物を用意しておくのは、智美の重要な仕事である。
お茶をぐっと飲み干した夫が、
少し出かけてくるよ、と言う。
これは珍しいことだ、
あら、、何処に?
と妻の問いに
「ちょっとな、、大きな試合があるからそれの準備にな、、ああ~面倒だなあ~、、」と立ち上がりながら答える。
「あ、、きっとトレーニングだ」智美は、立ち上がった夫の目を見て直感した。
ああ面倒だな、と言いながらも夫の目がキラキラと光っているのを妻は見逃さなかった。
つづく
那須で産まれた腕時計
NASU FOREST WATCH

