青年と彼女の3ヶ月間

青年と彼女の3ヶ月間

とある青年と彼女が過ごした、たった3ヶ月間の幸せな時間。

彼女の人生とその価値。

生きる理由とその終わらせ方。

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泣いた。



涙が止まらなかった。



それでも咽びながら何とか伝えた。



自分があなたの副人格の彼氏だと。



そしてその副人格は今消えたと。







主ちゃんはただ静かに全てを受け入れた。



けーちゃんから事前に全てを聞いていたのだろう。



そして、「けーちゃんのこと、ありがとうございました」と礼を言われた。




俺のせいで身体を奪われていたのに礼を言うとか、流石けーちゃんが愛した人だな。









少し落ち着きを取り戻し、主ちゃんの身の上話やけーちゃんの話をした。
2ヶ月前同様、初対面とは思えないほど自然と会話が繋がった。けーちゃんのイタズラシリーズをアンニュイな雰囲気で語る主ちゃんは大人びて見えた。




さて、主ちゃんはこれから彼氏の所へ行くのだ。いつまでも引き止める訳には行かない。


「これ、けーちゃんが働いて稼いだお金です。受け取ってください」

そう言って封筒を手渡すと、主ちゃんは『そうですか』とだけ言い、何も聞かずに受け取ってくれた。
すまんなけーちゃん。俺から主ちゃんへの餞別だと思って許してくれ。



「じゃあ、そろそろ駅まで送るよ」



と言っても徒歩3分だが…










『ああ、ここの駅だったんですね』

主ちゃんは駅に着くなりそう呟く。



「友人がこの辺に住んでるんでしょ?けーちゃんから聞いたよ」

『…はい、彼とは下ネタトークだけで1晩を明かせる仲です』

相変わらずどこかズレた回答をする主ちゃん。







切符を買い、改札口の前に立つ主ちゃん。




(ああ、ついに彼女の姿を見るのもこれで最後か)





(けーちゃんに無理言って最後に撮った写真、大事にしないとな)










主ちゃんは深々とお辞儀をした。



『青年さん、本当にありがとうございました』



「いえいえ、大したことはしてませんよ」



『それでは…また縁がありましたら…』



エスカレーターでホームへと降りる彼女の背中を見送る。



彼女はこれから幸せになる。



(2人分…いや、3人分幸せになってくださいね)










主ちゃんの姿が見えなくなった。




俺はスマホを取り出しメッセージを打つ。




宛先は…けーちゃん。





「けーちゃんと過ごした3ヶ月間、本当に幸せでしたよ。ゆっくり休んでくださいね。また天国で会いましょう。」




送信されたメッセージに既読が付くことは無かった。




けーちゃん曰く、主ちゃんはLINEを使わないと言っていたし、パスワードはけーちゃんしか知らない。けーちゃんが最後の眠りにつく前にロックを掛けたのだろう。
だから今後俺からのメッセージが届くことは無い。







こうして全てが終わった。


















それから俺は狂った。










けーちゃんが消えたことによる喪失感が俺の心をズタボロに引き裂いた。引き裂かれた心の中身もどこかへこぼれ落ちた。








もうどこにもいない。あの笑顔が見れない。ごしゅじんと呼ばれることもない。これが現実なんだ。世界中のどこを探してもけーちゃんはいないんだ。








静かな自宅が嫌だった。
時間があるとけーちゃんのことを思い出して辛かった。
自分が何のために存在しているのかが分からなかった。
心の穴を埋めたくて周りにも迷惑をかけた。
自暴自棄になっている自分が嫌だった。
弱い自分が嫌いだった。
そして何より一瞬でも《もう一度襲えばまたけーちゃんが現れてくれるんじゃないか》という最低な冗談を思いついた自分が大嫌いになった。







そんな恐怖から逃れるように仕事に打ち込んだ。
職場なら誰かがいる。それもけーちゃんのことなど知らない人達だ。けーちゃんのことを忘れるのにこんな好都合は無い。





限界まで、時には限界を超えて働き、家に帰ると死んだように眠る。
そうすればけーちゃんのことを考えずにすむ。考えたところで戻ってくるわけではない。考えたってもう無駄なんだ。終わったんだ。



会社からすると熱心に仕事に打ち込むその姿は高く評価され、順調に出世して行った。給料も増えた。仕事もさらに増えた。それに比例するかのように、心が空っぽになっていくのが分かった。


痛みも、感情も、この世への未練も薄れていった。


どうせこの世にもうあれ以上は無い。


あの3ヶ月が頂点だったのだ。


あの時、間違いなく俺たち2人は物語の主役だった。






もう一度主役になりたいなんて微塵も思えなかった。


もう、やり切った。


後はただ惰性で生きていけばいいのだ。


死ぬ気すら起きない。


死んだように生きていこう。













それから月日は流れ、2度目の3/25。


「こんにちは、元気にしてますか?天国は楽しいですか?それともまだ寝ているのですかね。俺はなんとか生きてますよ」


LINEでメッセージを送るが、やはり既読が付くことは無かった。


少しだけがっかりした。


やはりまだ心のどこかで期待してしまっていたのだ。










3度目の3/25。


メッセージを送る。


既読は付かない。


もう心は揺らがない。


墓参りで故人に話しかけるのと同じ。


返事を期待しているわけではない。単なる自分の気持ちの整理だ。
















そして何度目かの3/25



時が傷を癒すとはよく言ったもので、当時に比べると心は穏やかになっていた。
もっとも、完全に元通りとはいかず、厭世的なのは治らなかった。ついでに言うと仕事の量が多いのも相変わらずだ。









どんよりとした曇り空の下、例年通りに近況を綴ったメッセージをけーちゃんのLINEに送る。








その時、雲間から陽光が射し、季節外れの陽気が辺りを包んだ









「さて、有給も取ったし…今日は後は何をするかな」






そう呟いて、LINEを閉じようとした時







既読の文字が目に飛び込んだ











心臓が跳ね上がる











息をすることも忘れて、画面を見続ける














そして、一通のメッセージが届いた



















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これは、とある青年と彼女の物語  

さあ、物語を続けましょう───

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青年と彼女の3ヶ月間 〜Fin〜