卵の緒 | 本日もしらたま日和

本日もしらたま日和

冴えない人妻(無職)の冴えない日常を殴り書いています。

「ねぇお母さん!

聞いて!!!」




学校から帰ってくるなり


私のところへ飛んで来る








「今日

体育の時間に


僕、一番になったんだよ!


きょういてきなきろく


だって


先生が言ったよ!」







「走り幅跳び?」







「えっ


どうしてわかったの?」


そう言って



まつげの長い

真ん丸な目をぱちぱちさせる







「うふふ


なんか


得意そうな気がしたから





それより


手を洗っていらっしゃい」





みんなも

そう言うんだよなあ






首を傾げながら



洗面所に向かう後ろ姿に目を細めた










今年小学校に上がった

私の息子は





他の子供たちと



少し違っている







紛れもなく




私のお腹から産まれたのだけれど








血は




繋がっていない









私は



人工受精で











ワラビーの子供を産んだのだ

















・・・上記は



私がまだ




ピチピチGALの女子高生だったころ







授業中に妄想していた内容である









高校生の頃から



子どもや



子どもを産むことにはあまり興味がなかった







10ヶ月も


お腹の中に持ってなきゃいけないなんて!




卵で生まれるならラクなのに・・・








そんなとき



カンガルーや



カンガルーのミニ版であるワラビーなど




いわゆる有袋類は






ものすごく小さい状態で出産し





袋の中で育てるのだと知った











ワラビー可愛い!!


ワラビーなら


産むのも楽そうだし





そうだ



生まれたあとは



エプロンのポケットで育てよう・・・!






実際


交通事故などで親を亡くしたワラビーは


そうやって育てられているらしい










今考えれば



何も自分で産まなくても



普通に飼えばいいと思うのだけれど








当時の私は




とてもすばらしい考えだと思った









父親がワラビー



母親は私




そうなると問題が発生する






だってハーフじゃん?





ワラビー面人とか




人面ワラビーが生まれたら




どうしていいかわからない









なので



ワラビーの受精卵を


人工的に



子宮に入れてもらえばいいと思った







夢見がちな割には


そのへんは考慮していたらしい








9匹産んで



ワラビーで野球チームを作る!









ワラビー出産計画を




自慢げに友達に話し







「電車の中で恥ずかしいこと言わないで」






怒られた
















しばらくして



別に自分で産む必要も無いか




と思い直した








私は



いつかワラビーを家で飼う日を夢見た














しかしある日





衝撃的な事実を知ることになる














実際に



家庭でワラビーを飼っている人の


ホームページを見つけた







ワラビーたちは



狭いゲージに入れられていて








「ワラビーは



とても神経質です。




車のサイレンや



大きな物音に驚いて



家具に激突して死亡する場合がありますから



注意が必要です。」











私は



今まで自分が





どんなに愚かで



どんなに自分勝手だったのかを知った









可愛いから


側に置きたい











それだけの気持ちで



いつか飼いたいと思っていた












オーストラリアの



広い草原で




家族や仲間と



思い切り走り回る









ワラビーにとっては



それが一番の幸せのはずだ









たまにテレビに映ったり




ネットで検索すれば



画像や動画も見られる





いつか私が


オーストラリアに



会いに行けばいいんだ








それまでは


可愛いワラビーが



草原をピョンピョンする姿を





自分で思い浮かべればいい









側にいることだけが


愛の形じゃない







好きなひとの幸せが


私の幸せ







遠くから



好きなひとの



幸せを祈る





そんな愛もあるのだと





私は知った


















何の話だよって感じなんですが





以前



ゆずさんにいただいた本を読んだら







こんなことを




思い出しました









とても素敵な


おはなしでした







本日もしらたま日和 ~曇りのち晴れ 時々ハンドメイド~-2012052721590000.jpg



瀬尾まいこ 著


『卵の緒』


新潮文庫




【新潮社HPより】


掴みどころはないけどとても確かなもの。親子も家族もそんな絆でつながっている。デビュー作、待望の文庫化!

僕は捨て子だ。その証拠に母さんは僕にへその緒を見せてくれない。代わりに卵の殻を見せて、僕を卵で産んだなんて言う。それでも、母さんは誰よりも僕を愛してくれる。「親子」の強く確かな絆を描く表題作。家庭の事情から、二人きりで暮らすことになった異母姉弟。初めて会う二人はぎくしゃくしていたが、やがて心を触れ合わせていく(「7's blood」)。優しい気持ちになれる感動の作品集。