無頼派エレクトロ。 -2ページ目

無頼派エレクトロ。

Create the future. What can we do? What should we do?

 

去る1月11日、高橋幸宏さんが亡くなられました。

謹んでご冥福をお祈りいたします。

 

長年に渡り、ソロアーティストとして、様々なバンドやユニットのメンバーとして、スタジオミュージシャンとして、八面六臂の活躍をされてきた幸宏さんですが・・・

僕にとっては、なんと言っても“YMOの”幸宏さん。

三人揃ったYMOはもう存在しないのだ、と思うと、言葉になりません。

細野さんや坂本さんの心痛は、いかばかりか・・・

それだけに、訃報を受けての矢野顕子さんのツイートには胸を打たれました。

 

“YMO Goes Forever.”

 

本当に、その一言に尽きますよね。    

さすがアッコちゃん!

 

 

 

率直に言うと、僕が幸宏さんの音楽を追いかけていたのは、90年代半ば頃まで。

ベスト盤「I'm Not In Love」を買ったのが最後でした。

(昨年リリースされたライブ音源集「IT`S GONNA WORK OUT ~LIVE 82-84~」は買いましたが。)

でも、80年代の幸宏さんの楽曲は、今でも愛聴し続けています。

なので、亡くなったと言われてもピンと来ないんですよね。

多分、これからもそうだろうと思います。

 

個人的な懐旧談を、ひとつふたつ。

90年代末、赤坂BLITZで行われたクラフトワークの来日公演で幸宏さんに遭遇したことがあります。

クラフトワークというのがまたベタですが(笑)、開演前にロビーでビールを飲んでいたところ、幸宏さんが向こうからやって来るのが見えたんですよね。

一瞬怯んだものの、意を決して「幸宏さ~ん!」と追いかけていき、自分のデモテープを渡したのです。

いざという時のために、いつもテープを持ち歩いていましたから。

幸宏さんはギョッとした面持ちでカセットテープを受け取ると、無言のまま2階の関係者席へ行ってしまいました。

一緒にいた女性(奥様?)は「なんて用意のいい」と思われたんでしょうか、ウケていましたけど、幸宏さんにしてみれば迷惑な話ですよね。

本当に、申し訳ありませんでした。

ところが、帰宅後に確認したところ、テープに連絡先を書いていなかったという・・・

マジで男泣きしました。

でも、今にして思えば、書いていなくて良かったかも知れません。

幸宏さんから影響を受けた音楽を幸宏さんが聴いても面白くなかったでしょうから。

 

もうひとつ。

99年8月のこと、グレイテストヒッツという音楽事務所のホームスタジオで僕の曲のレコーディングが行われました。

PROPHET-5、PPG WAVE、OBERHEIM MATRIX-12・・・といったハイエンドシンセがずらりと並んでいて、血湧き肉踊らされたものです。

その後、だいぶ経ってから知ったのですが、97年頃に幸宏さん監修による(アレンジや演奏も?)「Cine Techno」というアルバムのレコーディングが同スタジオで行われたらしい。

そのアルバムを聴いたところ、僕の曲と音がソックリなんですよ。

多分、同じ機材や音色を使い回していたんだろうな、っていう(笑)

 

小話はこれくらいにして、ここからは幸宏さんの楽曲を紹介しつつ、その偉大な業績を讃えたいと思います。

前述のとおり80年代の楽曲が中心になりますが、いま聴き返しても本当に名曲が多い!

僕が言うまでもなく、幸宏さんはRYDEENだけの人じゃありませんから!(笑)

 

 

 

Drip Dry Eyes / 高橋幸宏(1981)

 

僕が最初に買った幸宏さんのソロアルバムが「NEUROMANTIC」。

タイトル通り、甘美で感傷的で退廃の香りが漂うロマンティックテクノ。

こんなアルバムを作れるのは、後にも先にも幸宏さんだけでしょう。

この「NEUROMANTIC」において幸宏さん流のテクノが確立された、と僕は認識していますが、続く「WHAT ME,WORRY?」「薔薇色の明日」も同傾向の名作。

この時期の幸宏さんは作曲面でもサウンド面でも、世界の最先端を突っ走っている印象でしたね。

「NEUROMANTIC」の白眉と言えるのが、この「Drip Dry Eyes 」。

淡いシンセの音色やROXY MUSICのアンディ・マッケイによる流麗なサックスソロが夢見心地にさせてくれます。

PVは、目黒にある東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)で撮影されたもの。

僕も何度か訪れたことがありますが、あらためて聖地巡礼(笑)したいです。

 

 

 

And I Believe In You / 高橋幸宏(1983)

 

シングル「ARE YOU RECEIVING ME?」のカップリングとしてリリースされ、ウィスキーのCMにも使用された曲。

「一番好きな幸宏ソングは?」と問われたら、僕は迷わずこの曲を挙げます。

もう、幸宏ワールド全開!

遠い日の青空を思い起こされるというか、望郷の念を掻き立てられるというか。

PROPHET-5とビル・ネルソンのE-BOW(ロングサスティンギター)の組み合わせはYMO「邂逅」でもお馴染みですが、こういう世界観によく合うんですよね。

幸宏さんのプロフェットサウンドは、ここにおいて完成された感があります。

こんなにも夢と希望に満ちた音楽を、僕は他に知りません。

この曲のような気持ちで、これからも人生の旅を続けていきたいです。

 

 

 

ドアを開ければ / 高橋幸宏(1983)

 

企画アルバム「WE WISH A MERRY CHRISTMAS」収録曲。

この曲も幸宏ワールド全開。 

幸宏さん曰く「グッとくる」ってやつですよね(笑)

やはり、PROPHET-5の音作りが素晴らしい!

白銀の情景とクリスマスの聖なる気分が、プロフェットだけで見事に表現されています。

幸宏さんのボーカルも実にダンディー。

本当に、この頃の幸宏さんはノリにノリまくってたなあ~。

 

 

 

At Speak Easy Club / 高橋幸宏(1985)

 

幸宏さんの主演映画「四月の魚」サントラ盤収録曲。

シングルカットされた主題歌も大好きですが、あえてこの曲を。

インストのテクノポップということで言えば、個人的にはRYDEENよりも好きです(笑)

完成度云々はともかく、やっぱり「グッとくる」という点で。

メッチャ青春してますよね~!

当時、僕自身15歳か16歳くらいでしたから、曲の世界観と共振したということもあるでしょう。

この曲を聴くと、いつでもあの頃に戻ってしまいます。

 

 

 

EXITENTIALISM / THE BEATNIKS(1981)

 

鈴木慶一さんとのユニット、THE BEATNIKS。

その1stアルバム「EXITENTIALISM(出口主義)」は、僕的に幸宏さん関連のアルバムで一番好きかも知れない(YMOは除く)。

川崎の工場地帯で撮影されたジャケット写真が象徴しているように、PROPHET-5のポリモジュレーション(金属的な音を作る機能)やテープループを駆使した、インダストリアル音響全開のテクノ。

世界的にも、他に類を見ないものだったと思います。

僕が特に好きなのは、幸宏さん作曲による「Une Femme N'est Pas Un Homme(女は男じゃない)」。

黒魔術の儀式のような曲調から、いきなりシャンソンっぽくなる展開がイイ!

この曲のリンクを探していたところ、なんとビデオ作品「EXITENTIALISM」をそのままアップしている動画が見つかったので、そちらを紹介します。

収録曲は、「Le Sang du Poete」「No Way Out」「Inevitable」の3曲。

是非、削除される前に御覧になって下さい(笑)

 

 

 

サマルカンド大通り / スーザン(1982)

 

幸宏さんプロデュースで2枚のアルバムをリリースしているスーザンですが、こちらはシングルでのみリリースされた曲。

ニューウェーブ色の強いアルバムとは傾向が異なり、ストレートなテクノ歌謡。

個人的な話になりますが、前述のグレイテストヒッツスタジオにおけるレコーディングの際、ディレクターのIさんという女性に「プロフェットを使ってスーザンのサマルカンド大通りみたいにしたい」と言われたんですよ。

「マニアックなことを言うなあ~」と思ったんですけど、グレイテストヒッツはピチカートファイブ等が所属していた事務所なので、さもありなんという感はありました。

ところが僕は当時、「サマルカンド大通り」を聴いたことがなかったのです。

だいぶ経ってから中古盤を買って聴き、「ああ、なるほどね〜」と納得した次第。

そんな経緯もあり、忘れ難い曲です(笑)

 

 

 

STAY CLOSE / Yukihiro Takahashi&Steve Jansen(1986)

 

幸宏さんの愛弟子、スティーヴ・ジャンセンとのコラボシングル。

前年リリースされたアルバム「ONCE A FOOL」収録の「冬のシルエット」では分数コードでグイグイ展開するパターンが幸宏さんの新機軸を感じさせましたが、その延長線上にある曲。

この顔合わせでストレートなダンスミュージックとは予想外だったものの、とにかくセンス抜群!

もっと売れて欲しかった(泣)

PVも秀逸。

往年の日本映画(小津安二郎や東宝のサラリーマンもの等)へのオマージュともいえる内容で、幸宏さんとスティーヴが幼馴染みという強引な設定、食事中に突然歌い出す不自然な展開など、当時欧米で隆盛を極めていたMTVに対するパロディーという側面もあります。

JAPAN時代は兄(デヴィッド・シルヴィアン)の陰に隠れがちだったスティーヴですが、なかなかのコメディアンぶり。

幸宏さんとのスチャラカなダンスも息が合っています(笑)

 

 

 

 

WATERMELON / 高橋幸宏&東京スカパラダイスオーケストラ(1995)

 

90年代半ばを迎え、YMO再生の喧騒も収まった頃にリリースされたシングル。

久々にノリのいい、それでいて大人の余裕を感じさせるポップソング。

テレビの歌番組にも頻繁に登場し、爽やかな笑顔でドラムを叩きながら歌唱する幸宏さんを嬉しく拝見したものです。

カセットテープに録音し、ビーチに寝転んで缶ビールを飲みながらよく聴いていたなあ~。

戻らない夏の日々。

 

  

 

最後に・・・

 

幸宏さんの訃報に接し、細野さんからはこんなコメントが寄せられました。

(Twitterから引用。)

 

人の人生は一冊の本のようだ。

いま「高橋幸宏」という本を読み終え、多くのファンがあとがきを書こうとしている。

 

僕の拙文も、そのあとがきのひとつと言えるのでしょうか?

いえいえ、あとがきを書き得るほど、自分が幸宏さんの良い「読者」だったとは思っていません。

むしろ、僕自身の本=人生を綴るようにして、上記の文章を書き連ねてきました。

音楽を聴くという行為は、それ自体が人生を形作る営みです。

これからも、僕の人生は幸宏さんの音楽と共にあるし、僕の人生の節目節目で幸宏さんの音楽が寄り添って下さることでしょう。

 

 

幸宏さんに、限りない感謝を込めて。