金曜日の魔法の後日談(数週間後)になります。
必ず先に前作を読んでください。
まだ読んでいない方は→金曜日の魔法
全て玉井目線。
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今日は土曜日、私は休みだったけど、夏菜子はれにちゃんと仕事だった。
で、夜ご飯はれにちゃんと食べるって連絡がたった今きた。
こんなこと前もあったな、なんてどこかで感じながら、1人でご飯を黙々と食べて、溜まっていたドラマの録画を消化していた。
そろそろお風呂に入ろうとソファから重い腰を上げた時に夏菜子から電話がかかってきた
「もしもし」
「もしもーし!玉さん?夏菜ちゃんがねー」
出た瞬間に聞こえるのは元気なれにちゃんの声。もう大体見当がつく。
「酔いつぶれた?」
「すごーい!さっすが玉さん、夏菜ちゃんのことはなんでもお見通しだね!」
いや、前もこんなことあったのよれにちゃん。
すぐにお店の場所を聞いて家を出た。
きっと最速記録。まだ2回目だけど。
そういえば前に酔いつぶれた時はベッドに押し倒されて…ってなに思い出してるの私…!
でも期待しては自分でそれを押し殺し、また期待して…を繰り返していたうちにお店に着いた。
そこはアットホームな居酒屋という感じで、いかにもれにちゃんセレクトなお店だった。
仕切りはあるようでないような感じだったから、入った時に2人を見つけることは簡単だった。
「夏菜ちゃん、最近玉さんとはどーなの?仲良し?」
そっと2人の席に近づいた時に、そんなれにちゃんの言葉が聞こえた。
隠れる必要もないのに近くの椅子に隠れてしまった。
「仲良しだよぉ〜〜」
「玉さんのこと大好きだもんね」
「そうだよ〜、しおはね、ほんっとに可愛いの〜〜、でへへ」
「夏菜子ちゃんだいぶ酔ってるね〜」
「酔ってらいよ…」
「玉さんのさ、どんなとこが好きなの?」
「えへへ…全部だよ〜」
「でも私も玉さんのこと好きだよ」
「私の方がしおのこと好きだもん!」
「ふーん、どこが好きなの?」
「だからぁ、一緒に寝る時ね、いつもぎゅってしてくるのかぁいいの……遅く帰ってもね起きて待っててくれてね……休みの日は車に乗せてくれて…いっぱいあるよ…好き…」
「ふふ、夏菜ちゃんには負けるな〜」
そう言ったれにちゃんと目が合って、菩薩のような笑顔をされた。
「だってよ、玉さん」
「れにちゃん…私がいるの知ってたの」
「店に入ってきた時に見えたよ」
「あちゃ、バレてたか」
「夏菜ちゃん、ほんとに玉さんの事好きなんだね」
「…そう、なのかな?」
夏菜子の方を見ると、ウトウトしていた。
「玉さんが来る前にね、夏菜ちゃん玉さんのこと心配してたよ」
「え?」
「玉さんは可愛くて完璧だから、他に相手ができちゃうんじゃないか、って」
「夏菜子がそんなこと言ってたの?」
「うん、それも聞かせてあげたかったよ〜」
私が他の人に惚れる?そんなの、あるわけない。
「れにちゃん、今日夏菜子どれくらい飲んだ?」
「ここだけの話、飲んでないよ。最初っからノンアルにしといたから、気分だけ酔って今は寝ちゃってるだけだと思う」
「さすがれにちゃん、ありがと」
デロデロな夏菜子を起こしてタクシーを捕まえる。タクシーの中でぐっすりな夏菜子。
まただ、この流れ。
「夏菜子、家着いたよ、起きて」
心配になる程軽い夏菜子を背負って玄関の扉を開ける。
「んんん、しお…ベッド」
「っ…うん」
耳元でそう囁かれて途端に早くなる心臓。
翻弄されてるのはきっと私のほう。
寝室の扉を開け、そっとベッドに降ろすと、もう夏菜子は寝ていた。ノンアルで気分だけ酔ってこんなに寝れるものなのか…。
夏菜子をベッドに寝かせ、ベッドの下に座ってシーツに頬杖をついた。
「まつ毛、長いなぁ…」
夏菜子の顔をまじまじと見る。
まつ毛に軽く触れ、そのまま鼻へ滑らせる。
「意外と鼻高いんだよね」
誰に言ってる訳でもないのにニヤニヤしてしまう。鼻のてっぺんまで行って、柔らかい唇をぷにゅっと潰した。
「最近忙しくて全然してないね…、昨日もせっかく私の帰り待っててくれたのに、疲れて先に寝ちゃってごめんね…」
夏菜子の唇を指で押しながらそんな事を呟く。
「でも、夏菜子もこの前酔っ払って途中で寝ちゃったよね、ふふふ」
なんて1人で笑った。
「ねぇ夏菜子…私は他の人に惚れないよ。ずっと、夏菜子だけだよ。だから心配しないでね…」
そう言って夏菜子の頭を撫でて立ち上がろうとした時、頭を撫でていた方の手首をキュッと掴まれた。
「起きてる時に言ってよ」
吸い込まれそうなほどの夏菜子の黒い瞳から逃げるなんて、もうできなかった。