現在のアルゼンチンの軍隊は志願制だ。
職業軍人になると給料も支給されるので、この不況のなか、
軍を就職先として考える若者も増えた。

 しかし、昔は徴兵制だった。
国のことなど殆ど考えてないティーンエージャーにとって、
軍で1年を「潰す」なんて、どうしても避けたい事態だった。

 18歳になると、国民IDの番号の下3桁に3桁の番号が抽選で
割り振られた。そして、年によって違ったが、例えば1975年
生まれの場合は、抽選番号が700以上の人が徴兵。
「助からなかった」ヤツだ。

オレの番号は700以上。
まず、軍の施設でメディカルチェックを受ける。

 1日目。
配られた用紙に氏名、住所などを記入。
「希望」の項目もあったので、「パラシュート隊」にチェック。
歯を検査(※注1)され、血も抜かれた(※注2)。

 2日目。
全裸で身長、体重を測定。
肛門をチェック(※注3)される者も。

 3日目。
結果をもらいに行く。
ドキドキしながら待っていると、手渡されたIDには、な、何と
予想外の「不合格」のスタンプが。これは、軍隊に行かなくても
いいということだ。理由は、体重オーバー。知らなかったのだが、
50キロ以下と、100キロ以上はダメなのだ。オレは107。
0.1トン...ちなみに、51キロで合格のヤツもいた。

 当時の感覚では、「助かった」のである。
しかし、おかげでスカイダイビングは未だ未経験。

                    つづく


※注1:歯並びが悪過ぎたり、抜け歯、虫歯が多いと、不合格。

※注2:糖尿病などは不合格。
    不合格になるために、前日にドゥルセ・デ・レッチェ
   (ミルクとたっぷりの砂糖を煮込んだ、ペースト状のキャラメル。
    生クリームと似たような使われ方をされる)を1キロ食べて
   「糖尿病」と診断された猛者もいる。

※注3:ホモはみんなに可愛がられるので、不合格。
 「サラダ系のつまみを買ってきて。あとティッシュ」
帰宅の途中、電話でヨメに言われた。野菜も摂取。
もう出来ていたメインディッシュ。

 10品目のサラダを買った。品目が10種。
オリーブとゴボウサラダも購入。とてもフレッシュ。
そのあと探したのはティッシュ。
行かないといけない店は別種。
実家の犬は雑種。

 別の店へ行った。もちろんダッシュ。
そのスピードは、まさにフラッシュ。
走りがとてもエネルギッシュ。
速すぎて、あわやクラッシュ。
ぶつかったら出来るのが血腫。
ノドがカラカラ。必要だ、リフレッシュ。
飲みたいレモンスカッシュ。

 あったぞ、ティッシュ。
花柄の箱を選んだオレはコケティッシュ。
支払いはキャッシュ。店員の髪型はボーイッシュ。
ビンラディンに狙われているのはブッシュ。

 「ただいま」
「おかえり。えっ?」
「えっ、って」

 「私が欲しかったのは、キッシュ...」
「あっ、キッシュ...」
「...」
「...」


 ショックで白髪が増え、色がアッシュ。
そうなると思った。ははは、これは冗談の一種。
「そりゃないぜセニョール」の「セニョール」はスパニッシュ。
英語で「ミスター」、フランス語で「ムッシュ」。

 聞こえが悪いなら、必要なのは耳のウォッシュ。
仕事に支障もあるので、もうないことをアイ ウィッシュ。

 こんなに韻を踏むオレはスタイリッシュ。
へくしゅ。

        フィニッシュ
              じゃなくて/

                    つづく
 「最悪ぅ~、オヤジくさぁい」
洒落という高度な手法に対する一般的な評価である。

 例えばアルゼンチンでは、日本語の言葉通り、お洒落なのだ。
スペイン語では「言葉遊び」と言われ、誰かが洒落をいうと
カッコいいのである。


X「マイケル・ジョーダンが...」
T「冗談じゃないよ」

 んっ?...お洒落か?


 言葉遊びだけに、訳しにくいものだ。
アメリカの黒人映画などでも、訳に説明が付き、字幕が膨大になる。
仕方がないことかも知れないが、訳せば説明的になってしまい、面白い
ものも面白くなくなってしまう恐れがある。その点では、オリジナル言語の
方はさっぱり解らない「ムトゥ 踊るマハラジャ」は、訳自体をダジャレに
していてストレスなく観ることができた。


X「デコポンって甘くて美味しいよね」
T ぺしっ「(お)デコにポンっと」

 んっ?...お洒落か?


 例文のベガルタ軍諜報部のT倉森さんはいつもこんな感じだ。
下手をすると運命をシェアし、共倒れになるので基本的にスルーするー。

                    つづく
 昨日、サテライトのゲームがあった。
終了後、徒歩でスタジアムを後にした。

 出口で、5~6人の若い女性サポーターから「お疲れさまです!」
と言われたので、「あっ、お疲れさまです!」とオレ会釈。
そのとき、薄暗くなり始めて始めていたので頭にかけていた
サングラスが定位置にすぽっとハマった。

 「きゃっ!恥ずかしい... 」
そう思ったが、とびっきりの笑顔でごまかした。
多分、ごまかせてない。

 髪の毛が伸びてきて、グリップ力がなくなってきている結果だ。
暗くなったら、今度からはケースに入れて仕舞っておこう。

                    つづく
 静岡にいた頃。
イトーヨーカドーのすみやで、何を買うでもなくDVDをみていた。
「なっ、何だこれは?」という衝撃とともに耳に飛び込んできたのは、
揺らぐ裏声の、ジャンル分け不能な、何故か懐かしい曲だった。

 最後まで聴き入った。
聴き終わったあとも、そのインパクトの余韻に浸っていた。
そうこうしているうちに何曲も流れ、店員に問い合わせるタイミングを
逸してしまった。

 マンションに帰ったあと、ありとあらゆる視聴サイトにアクセス。
まだランキングの上位にきていなかったので、見つけるのに20分程要した。
名前は「元ちとせ」曲は「ワダツミの木」。しかし、何者なんだ?
そう思い Google で調べてみると、一度は美容師になろうとした奄美大島の
彼女のことを少し知ることができた。


 オレのパソコンには4000曲近く音楽が入っている。
しかし、このキャンプ中聞いていた曲は5割ぐらいが元ちとせだった。
何故だろう。

 新しいのに古い。古いのに古臭くない。 古くない。
母親の力強さの中に、少女のか弱さ。自然の匂いがするのに都会的。
満たされているのに寂しい。寂しいのに情熱溢れんばかり。何なんだ。
自己の中にあらゆるアンチテーゼを兼ね備えているこの歌姫の魅力が
分析不能。そして、それが魅力。

 元ちとせの唄を聴いていると、幼少の記憶が甦るとともに、
今後オレはどうなっていくんだろう...という二つの時間が喚起される。
聴いているオレは子供であり、親でもある。子孫であり、祖先である。


 そうか、何となく解ってきた。
このひとは連綿と続く歴史の流れのなかに自然に溶け込んでいるんだ。
時間や空間の座標で、点ではなく、線、面、いや立体で存在している。
だから曲のリリースのタイミングは関係なく、常に新鮮で懐かしい。
余計に解らなくなってきた。

 1/f 。
周波数だけでは説明し切れない元ちとせの魅力はこれからも注目だ。

                     つづく

↑誰だオレ?