私は中学生にあがる年に引っ越しをした。
それまでも引っ越しが多かったので、
新しい環境、知らない土地で人間関係をやり直すのは慣れていた。
新入生は近隣の小学校から上がってきたのがほとんどで、私は誰のことも知らないけれど、クラスにはその土地の同じ小学校出身で知り合い同士の生徒というのはたくさんいた。
入学してから数日経ったころ、ある男子生徒から
「おまえ勝俣にそっくりだな」と言われた。
カツマタとは誰だ…。と私は思ったが、
どうやらその男子がいた小学校にカツマタという女子生徒がいたらしい。
同じクラスの、その男子と同じ小学校出身の生徒たちが呼び集められ、「こいつ勝俣そっくりじゃね?」「ほんとだ、勝俣じゃん」というやりとりがされた。
他のクラスの生徒まで見物にきて、私の顔を見てはカツマタカツマタと盛り上がった。
そんなにみんなしてカツマタに似てると言うのだからよっぽど似てんだな…と思った。
そのカツマタが普通の女子生徒であればこんなことしないだろうな、となんとなく「カツマタでーす。はい、カツマタ〜」と言いながらいないいないばあの要領で変顔をしてみせたら、
「うわ!勝俣もそういうことするんだよな!」
と余計に盛り上がってしまった。
どんだけカツマタは私なんだ!と思った。
それからは私が何をしても勝俣かよ!と言われるようになり、カツマタと呼ばれるようになり、
私はニセ・カツマタとしての生活が始まった。
カツマタさんは小学校卒業と同時に引っ越してしまったらしいので、この中学校にも近隣の中学校にもいないそうだ。
なので、私はついに最後までカツマタさんの顔も知らず、会ったこともないままだった。
私はカツマタさんを見たこともないのだが、カツマタさんの物真似をせずとも顔も仕草も振る舞いもカツマタさんとそっくりらしいので、転校するまでの3ヶ月間をカツマタさんとして生きることになった。
私が適当にやった「カツマタ〜」は一発ギャグとして定着し、ねえカツマタ、カツマタやってよ、と言われたら「カツマタ〜(変顔)」をやるのが日常になった。
3ヶ月後、私はクラスメイトに別れの挨拶もせずに夏休みの間に転校した。
転校先ではもちろんカツマタを知る人はいなかったので、私のカツマタ人生はそこで終わった。
代わりに、新しい中学校では「変な時期に転校してきた奴」として進級まで一年みっちりいじめられた。
時々、顔も知らないカツマタさんに思いを馳せてはどんな人生送ってるのかな、と考えた。
私はカツマタさんの存在を知ってるけど、カツマタさんは私を知らないのだ。
私がニセ・カツマタとして3ヶ月生きていたことも、カツマタギャグをして知らない土地で馴染もうとしていたことも、カツマタさんは知らないのだ。
きっとこの先もカツマタさんとは出会わないし、すれ違ってもそれがカツマタさんとは気づくことはないだろうが、これからもたまに思い出してはカツマタさんの人生に思いを馳せるだろうな、と思うのだった。