なぜ日本メーカーの競争力は落ちたのか。液晶ディスプレイを例にすると、先を見越した投資を怠ったことが挙げられます。そこに問題が隠されています。
かつての日本は、欧米と違って、「株式持合と良好な労使関係を背景にした長期投資」が強みと言われていました。その日本的経営により、世界市場を席巻したのは、前回申し上げた通りです。
液晶ディスプレイにおいても、90年代後半までは、ほぼ日本メーカーの独占市場でした。しかし、2001~2003年頃に第6世代の液晶生産ラインへの投資を控えてしまい、工場の立ち上げに遅れます。その一方で、韓国・台湾メーカーは、この時期に将来を見据えた思い切った投資を行っています。
法政大学・「イノベーション・マネジメント」,2007,No.5
2001年は3カ国とも営業利益がマイナスを記録したのですが、日本のみが投資を控えました。一方韓国・台湾メーカーは大きな投資を行っています。液晶に限らず、ハイテク製品は設備投資から利益を生むまでにかなりのタイムラグがあります。2001~2003年にかけての設備投資の差は、数年後に大きな差を生み、あれよあれよという間に日本メーカーはシェアを奪われていきます。
ただ上記だけでは、問題をすべて説明したことになりません。真の問題は、長期的投資を怠るようになったその理由です。長期的な投資は、シェアの獲得よりも、消費者利益のために行うべきでした。この目的意識が日本メーカーには欠如していたと思われます。
4. 消費者の欲しいものを見失っている
覚えておられる人も多いでしょうが、薄型テレビはその出始めの10年前、中古の自動車に匹敵する価格でした。それが家電量販店に普通に陳列されていたのです。こうしたテレビは一般消費者には手が出ませんし、マニアも欲しがらないものなので、異常な状態でした。AVマニアは、100万円のプロジェクターに興味があっても、60万円のテレビには興味がありません。「誰も欲しがらない商品」だったのです。だからテレビ業界は価格を下げるために、前年の利益に関係なく、一刻も早く設備投資を行わねばならなかったのです。
同時に進行していたのが、家電製品のコモディティー化=日用品化です。高度成長期でもあるまいし、家電製品の購入ぐらいで、お祝いする時代ではありません。日用品化とは、言い換えれば価値の下落です。テレビは映ればいいし、洗濯機は汚れが落ちればいいし、照明はつけばいいのです。当然、その価値に見合った値段しか消費者は払いたいとは思いません。
こうした市場の変化に、日本メーカーはもっと早く対応すべきです。しかしメーカーは、むしろこの傾向に必死に抵抗していることが観察されます。
例えば、皆さんの天井照明の買い換え予算はいくらでしょうか。多くの方は1万円前後だと思われますが、照明メーカーのカタログを見て下さい。メーカーが強くプッシュするのは5~10万円のものばかりです。照明器具のカタログを見ていると、パラレルワールドに住んでいるのではと錯覚しそうになります。
炊飯器を買おうと思い、家電量販店に行くと、メーカーの営業促進員(一見店員のように見える人)が「はい10万円」と勧めてきます。 「何が違うの」「土鍋のように炊けます」と。
・・・しかし土鍋は、4千円で十分なものが買えます。工業技術の粋を集めて、4千円の価値を10万円で実現することに、消費者の大多数が納得するものでしょうか。
5. "技術勝負"でも勝てない
日本メーカーは、技術競争といえばかっこいいのですが、最激戦区である消費者の望む価格帯での勝負を避けているかのようです。もちろん、最新技術を磨くことは重要です。特に家電製品は、機能・性能ともに飽和しており(だからコモディティー化が進む)、目新しい技術を開発すれば、先行者利益を獲得できます。
ぼちぼちではありますが、家電でも目新しい技術が投入され、ヒット商品が生まれることもあります。例えば自動掃除機であるルンバ。掃除の手間を省けるため、全世界で500万台以上が売れました。
また電気ケトルは、あっという間にお湯が沸くことから、2010年だけで約300万台が売れ、電気ポットの台数を上回ったとされます。この市場を切り開いたのはT-falで、お見かけになられる機会も多いと思います。
私が最近知ったもので、秀逸だと思ったのが「加熱できるジューサー」です。これはすごい。スープなども直接作れますから、ジューサーの用途を一気に広げました。
上記に挙げた商品は、デザインも良いことから、継続して売れ続けています。しかし、どれも海外の家電メーカーの開発したものです。そう、かつて日本メーカーがほぼ駆逐したはずの海外メーカーです。近年日本を脅かすアジアの新興メーカーでもない、欧米メーカーです。そのためか、どれもややお値段が高くなっております。
日本メーカーが、技術力を自慢するのであれば、上のような商品をもっと早く、もっと安く開発できていたはずです。力の注ぎ方に問題があると言わざるを得ません。
技術競争でも価格競争でも、優位性を発揮できないため、日本メーカーは存続の危機にまで追い込まれてしまいました。日本メーカーの地力で言えば両面作戦を展開し、両方で勝つこともできたはずですが、どちらでも負けつつあります。ただ両者の市場には共通点があります。それは「消費者の欲しいものの市場」ということです。
では、なぜ日本メーカーは消費者の欲しいものが分からなくなったのでしょうか。これこそが、日本メーカーが競争力を失った本当の、本当の理由です。
(続く)

















