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本日は、ワープロ練習をさせて下さい。
息子、四年生の国語の教科書から
かげ
森の中は、おどろくほどしずかだ。森は、休息している。木もれ日はじっとしたまま、動かない。えものがかかっているのを待っているクモの巣が、かすかにゆれている。
そんな森の中の草地から草地へと歩いていくのは、いい気分だ。森の中にぽっかりと空いた草地は、緑の大きなさかずきのようで、温かいエキスがみちている。
あっちの草原には、はちみつのエキス。ここでは、うすむらさきのエリカの花が、さき終わろうとしている。そっちの草地には、キノコのエキス。
そして、こっちにはしおれた葉のエキス。草地をたずねて、いろんなさかずきのエキスを飲んでみよう。頭がくらくらしてくるまで。
コケモモのエキスの草地に、子グマがいた。子グマは一頭だけで遊んでいたが、そのしぐさがなんともきみょうだった。とつぜん頭をふり上げ、前足と鼻先から地面につっこんでいった。そうかと思うと、今度は、やせたおしりを持ち上げ、さか立ちするようなかっこうで、つめで地面を引っかいている。子グマは、何かをつかまえようとしているのだが、どうしてもつかまえられない。
子グマは、長いこと、ひっくり返ったり、つかみかかったり、かみついたり、はらを立てたりしていた。わたしは、その様子をじっと見ていたが、なぜそんなことをしているのか、さっぱり分からなかった。
ところが、とつぜん気がついた。子グマは、自分のかげをつかまえようとしていたのだ。それがかげで、つかまえられっこない、ということがまだ分かっていない。子グマは、自分のすぐそばで、何か黒いものがかすかに動くのを目にとめた。子グマは、それにぱっと飛びかかり、歯をむき出した。でも、やっぱりかげはかげで、どうすることもできない。
大人のクマでさえ、ひと目見ただけでは、相手は何か、正確に分からないものだ。
まして、子グマだから無理もない。子グマは、かげのにおいをかいでみたが、なんのにおいもしない。地面に耳をおしつけてみたが、音もしない。手をたたいてみても、なぐり返してこない。つまり、だれもいないということなんだ。
子グマは、ちょつと歩いてみた。すると、かげもついてきた。これはどういうことなんだろう。あわてないで、じっくり考えてみなくては。
子グマは、おしりを下ろそうとした。そのとたん、とがった、小えだにぶつかった。
飛び上がったものの、こわくてふり返れない。目の前で、かげがとびはねている。
かげは、いったい何をしようとしているのだろうか。
子グマは、しばらくまよっていたが、またおしりを下ろそうとした。すわったのは、またもや小えだの上だった。子グマは、飛び上がった。
ただの小えだじゃないんだろうか。わたしはたしかに小えだだと分かったが、子グマは、おそろしくてふり向くことができない。味もにおいもしないこの黒いやつが、おしりにかみついたのだろうか。
子グマは、首すじの毛をさか立て、きばまでむき出した。そして、後ずさりしたら、今度はもっと太いえだにぶつかってしまった。
子グマはひくくうなると、ウサギのようにしげみに飛び込んだ。
草地は、しいんとしずまり返った。
だれも来なかったかのように。子グマは、走り去り、かげも飛んでにげていった。のこったのは小えだだけ。
そして、コケモモのエキスが、辺りにただよっていた。
終わり。

