nano*ez

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あなたの大きな手を握る

近くに無い日は詩を綴る

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雪が降る 君が怯える 

暖炉の前でまあるくなって 

外を眺めてため息ばかり 

季節鬱とは難儀だね 


雪の白さを崇拝する 君は気高いと思うけれど 

あれはひとつの精霊だと 話して諭して聴かせるけれど 

質の悪いイデア 世間知らずの努力知らず 


「この醜さに耐えられないの 私はどうして 白くないのかしら」 

羊、君の毛皮は生成りといって、 

それはそれは優しくて暖かい風合なのだ 

日にひゃっかい説いて聴かせても 

季節鬱とは難儀なもんで 

君は垂れた耳を上げようともしない 


こんなにも濁った私ならばいっそ 

いっそ塗ってしまえばいいと 

橙になった体毛をみて 

その滑稽さにまた肩を落とす 

「オレンジの羊ってどうかしら」 

上目づかいでめえ、となく。 

悪く無いと思うよ、僕はね。 


孤高の雪の痛みをごらん 

穢れのないものの嘆きをごらん 

高潔な白に生まれたら きっと痛みを求めるよ 

雪になんてならないでおくれ 

触れたら消えてしまう儚い存在なんて 

抱きしめる事もできやしないよ 


降り積もる雪 狂ったオレンジ 

暖炉の前のおどけた蜜柑色 

穢れてなければ今よりましだと 本気で思っている君こそが滑稽だ 


眠れない夜 刺さる白い昼 白銀は君の瞳を焼く 

日毎 君はちいさくなって、隠れる場所も多彩さを増す 

手乗り羊とはこれまた可愛い たまにはそんな姿もいいけど 

どうか食器棚には隠れないでおくれ 

ティーカップに毛がつくからね。 


柱時計に隠れた君は 振り子を停めたりまた揺らしたり 

今日は3時が二回あったよ 

おやつは二回頂こう 


いちにちひゃっかい説得をするぼくもとうとう季節鬱 


君に初めて会ったとき、アルマジロみたいな姿をしてたね 

誰の血なんだか体中にこびりついて、まるで鎧のようだった 

何度も冬を待ち雪解け水で濯いで、ようやく羊らしい姿になったけど、 

君の羊毛に染み込んだ色はまだとれない 

でもその優しい風合いを僕は愛しているんだよ 

ここまで柔らかくなって、僕は十分だと思っているよ 

君はどうかな?

羊と海の樹

2009051900:49


あなたと、ずっと一緒にいたいです。 

だから、がんばって羊から人間になりました。 

魔法を使えるようになりました。 

だから私を捨てて、奈落へ降りて行ったりしないでください。 


「ねえひつじ、私ね、じぶんのしんぞうを海にすててしまいました。」 

今回はどんなご趣向ですか。 

あなたの心臓はそうですね、さぞ剛毛そうですけども、 

心臓はえら呼吸できませんのでそういう事はやめて頂きたい。 


「ねえひつじ、私ね、なんだか苦しい。」 

潜水艦を用意しろ。サルベージ計画開始。 

そんなこんなで私、魔女は、この途方もない海を探し始めたのです。 


ソナー探索をしても何も引っかからない日々が続き、 

あなたのため息に私の寿命は縮むばかり。 

時々は叱りたくもなるというもの。 

まったく、どうして心臓を海になど。あの海になど! 


叱られるのが大好きなあなたはいつものように 

とても柔らかく笑って、 

「自分のなかに、こんなにずるいものが存在しているのが、 

許せなくなったのです。でも」 

「こんなふうにひつじがいっしょけんめいになってくれるのなら、それだけで嬉しい。 

でもすこし苦しい。」 

潜水艦、ソナーの感度をあげてくれ。 

てゆうか潜水艦ふやしてくれ。 

サルベージ計画はあてもなく進む。 


だいたい、この海はだれがどうやって作ったがお忘れですか。 

海であなたの何かが死ぬことは、絶対に絶対にあり得ないんですよ。 

かぽーんかぽーんとソナー音が鳴り響く中、 

ソファからまんじりともせずあなたは口をとがらせる。 


「私、私のしんぞうをやっぱり愛せないのです。でも、この海は、 

私のしんぞうだけなら愛して、側にいてくれるかもしれないと、 

そう姑息な考えもちょっとよぎりました。 

私をすてて、奈落へ遊びにいってしまう、そんな弱い光のことなんて、 

わたし、もうたよりにしていません。」 

ああもうお姫様は、この海を作らせたあの野郎がいなくなったことがそうとうお気に召さないご様子で、要は自分をふたつに裂いてしまいたいくらいのお気持ちなんだと推測いたしますが、わたくし羊はすこし悲しいのでございます。 


ひつじ2号からおかしな連絡が入ったのはその時で。 

「魔女ひつじ応答願います。盆栽が浮いてます。」 

わあもう、この世界はほんとになんでもありでこっちがどうにかなっちゃうよ。 

盆栽サルベージ頼む。こちらから肉眼で確認する。 

お姫様、盆栽だそうです。 

お姫様はようやく、持っていたティーカップをソーサーにおいて、 

丸い窓から海をみた。 

「ひつじ、わたし、生きている。」 

そうでしょうね。わたしとおしゃべりしています。 

「ひつじ、わたし、呼吸をしている。とても切ない気持ちがする。心臓が側に要ると思います。」 

急いで丸窓から覗いた青い青い海には、 

ちょうど姫のこぶし大の、奈落から生える世界樹が漂って、 

その根に心臓を抱き、酸素を供しているのでした。 


一応魔女なので、潜水服など要りません。かっこいいところを見せようと、 

そのままざぶざぶ深海に踊り出し、 

柔らかな光を放つ世界樹を、掌に捕獲します。 


奈落から生えるちいさな樹は、その根を血管と融合させて、 

共存することで心臓を活かしていた。 

それはまあるいひとつのオブジェのようで、 

おひめさまと、あの野郎に育てられた私は、 

とても懐かしいけど寂しい気持ちに捕われてしまいます。 


お姫様に世界樹ごと心臓を御返しすると、世界樹は役割を終えた様に枯れ、 

綺麗に血管から剥がれて落ちました。 

お姫様はあーんとおおきくおくちをあけると、心臓をもしゃもしゃ食べてしまいました。 

元ひつじで魔女だけど、けっこうグロイ映像とかダメな私は、ちょっと気分が悪くなりました。 


「おかえりなさい。」 

おひめさまは、自分の胸に手をあてていいます。 

「もっと海で、もっと世界樹と、ただよっていたかったと言っています。」 

悲しそうな目で笑いました。 


濡れて腐って枯れ果てた世界樹をそっと手に取ると、 

22.5センチのおみ足でふたつきのゴミ箱のステップを踏み、 

ぐしゃっと音がする勢いでそれを捨ててしまいました。 

「もう帰ってくんな!!」 

ドレスの端で手をぬぐいます。 

それ、洗濯するの私なんですけど。 


天の邪鬼なおひめさまは、あの野郎の事を愛しているらしいです。 


「ひつじ、どうもありがとう。胸がすーすーして息苦しいのが治りました。」 

ああ、そりゃあそうでしょう。主に私の気持ちが大変なので、 

しばらくは謹んで頂けると助かります。 

「それはそうと、ひつじ。」 

なんでしょう。 

「なんでひつじじゃなくなっちゃったの?もう、奇蹄目でいるの飽きちゃった?」 

かわいかったのに、と拗ねてみせる。 

可愛い私のお姫様。 

羊は、偶蹄目ですよ。 


あなたとずっと一緒にいたいです。 

そのためなら、ウシ科からヒト科にもなれるんです。 

魔法も会得いたしました。 

だから、あいつを追って奈落に行ってしまわないでください。 

もしもあなたが奈落の底へ連れて行かれたら、 

桃色の砂をかき分け、世界一の堀師を拉致っても、 

不肖魔女めが探しだして連れ帰りたく存じます。 


あなたと、ずっと一緒にいたいです。 



*** 

なんか書きたいけどなんにもかけないやーと思ってひつじを書いてたらこうなりました。 

魔女相変わらず美味しい。 

ここから、tricker's trickに続きます。 


ずっと閉じ込められていただけあって魔女の表情の豊かなこと。あんまりでてませんけど。 

姫はそれでも、弱い光が大好きなのです。



またおいでなすったのね。 


またそんなに剃刀研いでさ。 

濡れたみたいに光らせやがって 

それならいっそ船でも漕いでさ、 

濡れた指櫂に絡ませて 

ふたりして遠くへ行くのはどうだい 


わっちがあんたを捨てたと言うが、 

それはとんでもない話 

まるでとんと事実に無し 

飛んで火にいる夏の虫 

焦がしたつもりはこちらに無し 


そんな剣幕で毎度毎夜 

わっちに会いに来なさるが 

ただの一度もこの脚に 

触れたことすら無いじゃあないか 


とらわれたのはあんたの身勝手 

お帰りになるならこちらがお勝手 

引き止めてほしいだって? 

かむろがやるのは塩だけだんさ 


大勢がこの袖に縋りに来なさる 

大勢袖にされて泣きなさる 

御大尽もいろ男もみなひとしく 

それよ たまには涙もいとしく 


あんたも遊んで行きなさいな 

そうしてわっちを御恨みなさるが 

この柔らかい胸に触れた事も無いくせに 

わっちを知った気におなりでないよ 


ひとは其れを女神なと呼ぶ 

いいえ ただの遊女でありんす 

平伏して憧れて口づける 

おまえみたいに永遠に 

格子の向こうで遠巻きに 

しっぽ巻いてみてるやつもいる 


すべからく御相手いたしましょう 

灯台でも太陽でも女神でも 

お好きなようにお呼びなさい 

栄光でも名誉でも達成感でも 

好きな名前をつけるとよい 


ただの遊女 手管と流し目 

袖にされて泣くまでおやり 

なにもせず刃をとぐばかりで 

すべてを知った気におなりでないよ。 



ぼくは刃をとぐのがうまくなるばかりで 

そんなじぶんにも呆れてそろそろ 

二枚刃になったかみそりは曇りまくりです。 

みつぶとんをご用意したくがんばっております。

銀の果て
金の果て
降り注ぐ
千の祈り

銀の雫
金の糸
温かな眼差しと
疾風

あなたの名前は私がつけましょう
爪も牙もしまっておきなさい
私の体の中で微笑む小さな獣
何千里何百万里その身を駆っても
野の花草木一筋をも傷つけない
優しい麒麟のように

あなたの名前を考えてあげる
その顎を上げ天を見据えて
何を思うの?
金色の体の中に隠された疵痕
幾度の火をくぐり抜けて来た獣

ねえあたしたちは決して勝てなくても
決して負ける事はないのよ、いままでみたいに。
もう戦わなくていいのよ
これから長い時間をかけて、私とあなたは
戦いを放棄する生き方を学びましょう。

私の体という野原を駆けて
その優しい眼差しであたしという天を見て。
二度と檻に入れたりしないわ。
あなたが暴れても
私を食いちぎっても

金色の鬣が風に揺れる
私の中にも美しい獣がいる

アイオライトを透かして見る
逆さまの水面
藍染を絞って振った
淡い川浪 白んで流れる
うすあかりを照り返す
冷えた真珠色の肌
滑らせる指に 伝わる

眠りの森の白い睡蓮
重ね重なる 宵の秘密
攫う髪の端 誘う指先
白い波を泳ぐ人魚
明け星滴る甘い水密
誰も知らない 恋の秘密