本ブログ記事を書くに至った経緯について
HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の副反応に否定的な言説を精力的に発信している村中璃子氏の著書『薬害でっちあげ あまりに非科学的な子宮頸がんワクチン阻止運動―新潮45eBooklet Kindle版』について、Amazonに『多大な労力を費やした勇気あるドキュメンタリーであり一読を勧めます』と題した5つ星の高評価レビュー(書評)を投稿された神経内科医がおります。
その神経内科医は、重い副反応症状に苦しむ被害者に寄り添いながら懸命に診療や研究に取り組んでいる神経内科の医師たちとは対照的に、村中璃子氏の言説を全面的に支持・擁護し、彼女の主張と同様に副反応症状は心因性障害(心因性の心身症状)などとする記事をブログ『神経内科一歩前進』で精力的に書かかれています。
(同医師のAmazonレビューでのアカウント名は“Amazonカスタマー”となっていましたが、ブログでのHN名は“POWriter”となっているので本ブログ記事ではPOWriter氏と呼称させていただきます)
POWriter氏はネット上の情報を総合すれば、こちら↓の神経内科医とみて間違いないようです。
https://ja-jp.facebook.com/yukihiro.komine
AmazonでのPOWriter氏のレビューは、村中璃子氏の著書を直接論評するというよりは同じ神経内科医である宇多田ヒカルファンさん(twitterのアカウント名:bokemontaro@hichachuさん)のレビュー『薬害でっちあげをでっちあげる村中璃子氏ー非科学的な子宮頸がんワクチン薬害否定の推進旗手』に対する反論に力を注いだものでした。
※ ちなみに、宇多田ヒカルファンさんが投稿されたレビューには、POWriter氏と勤務先の病院が同じHPVワクチン強力推進派産婦人科医師の衣笠万里氏(Amazonでのペンネームは“下町の産婦人科医”)もPOWriter氏と連携するかのように批判コメントを投稿していました。それに対して私は反論の返信コメントを投稿しているので、ご覧いただければと思います。
POWriter氏が投稿したレビューに対して疑義、異論があったので私は批判コメントを投稿しました。その後、Amazonのレビューサイトでは同氏からの返信コメントはないまま現在に至っています。
ところが、POWriter氏はご自身のブログで「アマゾン村中書評2 NANAさんへ」と題した(私宛ての返信コメントという形の)記事を早い時期に書いていたことを、先日たまたま同氏のブログを覗いた時に初めて知りました。
POWriter氏のブログの存在は以前より知っていましたが、頻繁に訪問・閲覧していたわけではないので、結果として「返信コメント」を長い間スルーした形になりました。ただ、出来ればAmazonのレビューサイトで「返信コメントを私のブログで記事として書きました」との一報があってもよかったかなとは思います。
以上のような経緯があったので、POWriter氏のブログ記事に対する私の返信として、ブログ記事をあらためて書くことにしました。
尚、本ブログ記事は(その2)、場合によっては(その3)・・・と続く予定です。例によって(笑)長文になりますが、最後までお読みいただければと思います。
村中璃子氏がHPVワクチンを接種していないことを擁護する神経内科医POWriter氏の論理は、村中氏の実際の言動とは齟齬があり、説得力がない。
最初に、POWriter氏のAmazonレビュー多大な労力を費やした勇気あるドキュメンタリーであり一読を勧めますに対する私のコメントを紹介します。
(黒字はPOWriter氏のレビューからの引用、青字がそれに対する私のコメント)
> 村中さんは確かに子宮頚がん患者の診療をしてはいないのでワクチンを広めようというより、1科学者(医師)として偽りの科学は許さないというのが基本でしょう。
そうでしょうか。
村中氏には感染症患者や子宮頸がん患者の診療に携わった臨床経験が殆んどないというのは事実のようですが、ワクチンメーカーに在籍しマネージャー職に就いていたくらいですから、「ワクチンを広めよう」という活動を積極的、活発に行ってきたと考えるのは全く自然だと思います。
たとえば村中氏は、
https://www.youtube.com/watch?v=D98zq639rYY&app=desktop
の中で、「20代であっても十分に効果があります。」、「20代30代女性では子宮頸癌の8割を防げる。」、「メーカーによっては45歳くらいまで効果があると言われている。」と広言しています。
一般の臨床医でも、ここまで踏み込んだ大々的な効果を唱える方はそんなにいないと思います。
重篤な副反応症状を心因性だとして安全宣言し、上記のような効果を強調している村中氏ご本人はワクチンを接種していません。
「偽りの科学」を排し「真実の科学」を追求することが科学に対する彼女の矜持であるなら、ご自身が接種をしていないということは私には理解困難です。
私のこのコメントに対し、POWriter氏はブログ記事の中で以下のように反論していました。
村中さんがこのワクチンを接種していないことを攻撃材料のように勘違いしている人が多いです。この問題にNANAさんは不慣れのようなので、誤解がないように言いますが、HPVワクチンはHPV感染後に子宮頸がんになるのを防ぐものではないです。HPV初回感染を予防するものですから、自分が既感染と考えたら接種する必要は全くないですね。
こちらは性については遠慮なしに話すように教育されてきましたが、NANAさんが成人女性であるなら、村中さんがどうなのか、これ以上詮索したいですか?
Amazonで私のアカウント名からプロフィール欄をたどれば、容易に私のブログサイトにたどり着くことができます。そうすれば、私が以前からHPVワクチンに関して複数のブログ記事を書いてきたことをお分かりいただけたと思いますが、POWriter氏はそうせずに、アカウント名から私をHPVワクチン問題の議論に疎い女性と誤解されたようです。また、HPV感染や性に関する問題について奥歯にものが挟まったような言い方もされていました。
その辺のことは良しとして、POWriter氏の「HPVワクチンはHPV感染後に子宮頸がんになるのを防ぐものではない」、「自分が既感染と考えたら接種する必要は全くない」という指摘は私もその通りだと思います。しかし、私が村中璃子氏の発言で問題視することのひとつは、まさにその点にあります。
POWriter氏が言うように、「HPVワクチンはHPV感染後に子宮頸がんになるのを防ぐものではない」「自分が既感染と考えたら接種する必要は全くない」というのであれば、ワクチンが標的とするHPV型に既に感染しているのにもかかわらず接種を薦めるのは、効果(感染の予防)のメリットが無いばかりか副反応(副作用)リスクというデメリット面だけを負ってしまうことになります。
性交渉開始後の女性の中には、ワクチンの標的HPV型に既感染で接種の意義がなくなっている方もおられるのですから、こういった情報は広くしっかり伝えなければならないものです。
村中氏が自分のHPV感染について調べた(HPV検査を受けた)上での判断として、ワクチンを射たなかったというのであれば、そのこと自体は理解できなくもありません。POWriter氏は、村中氏がHPVワクチンを射たなかったことについて、そのように“忖度”しているようです。
しかしそうであるなら、村中氏はその重要な「ワクチンが標的とするHPVに既感染であれば、射っても副反応のリスクだけを負うことになるので射つ必要がない、射つべきではない」ということを視聴者に何故しっかり伝えなかったのでしょうか。
一般論として、個人のHPV感染云々について話題にするのは個人情報保護に抵触する問題が生じますが、村中璃子氏の場合はHPVワクチンに関する意見や主張をメディア等を通して広く発信している医療ジャーナリストという半ば公人ともいえる立場にあるのですから、必要があればこの問題は避けて通れないはずです。
動画をしっかり視聴すれば分かりますが、村中璃子氏の発言はワクチンのメリット(効果)を強調することばかりに偏っており、デメリット面の情報、たとえば上述したようなワクチンの効果を得ることなく副反応のリスクをだけを負ってしまう場合があることについては、何も語られていません。
HPVワクチンに関する村中璃子氏の一連の発言を、動画から出来る限りありのままに再現してみます。
動画の38分過ぎにおいて、村中璃子氏は司会者の質問に答えて「私は(HPVワクチンを)射ってません。」と明言しています。
そして、自分が射っていない理由については全く何も語らないまま、動画の40分過ぎで、司会者からの「『20歳後半だし、今から射っても遅いよね』という(視聴者からの)質問には何て答えたらいいですか?」という問いに答えて村中璃子氏は、「HPVには色々なタイプがあるので、ワクチンに入っている型の内で全部に感染しているとは限らないんですね」、「(ワクチンには)特にがん化しやすいものの型が入っているので、その中で少しでもプロテクション(予防)の率を高くしたければ、やはり射ったほうがいいということで、メーカーによっては45歳までは射ったほうがいいというのもあります」、「20代ぐらいまでであれば、射って十分に効果があると言えるんじゃないかと思います」とHPVワクチンの効果を宣伝する発言を連発していました。
村中璃子氏はHPVワクチンの効果を強調したい気持ちばかりが先走るのか、POWriter氏が書いたようなワクチンを射つ意義がなくなってデメリット面だけを生じる場合があることについての説明や情報提供が、全くと言っていいほどなおざりにされています。
村中氏は「(ワクチンには)特にがん化しやすいものの型が入っているので、その中で少しでもプロテクション(予防)の率を高くしたければ、やはり射ったほうがいい」と発言していますが、子宮頸がん予防の話として20代後半女性の視聴者から効果に対する疑問が出されている場面での彼女の回答・解説は、接種推奨が何よりも優先され、接種の意義が消失して副反応リスクだけを負う場合があることが無視されたものになっています。
高リスクとされるHPV型が何種類もある中で現行のワクチンは16/18型の二種類にしか感染予防効果がありません。ワクチン標的の型に既感染であれば、接種自体の意義がなくなります。また、二つの型に感染していなくても他の高リスク型に感染していれば、ワクチンを接種しても将来的な「前がん病変」の発症リスクは無くなりません。
「少しでもプロテクション(予防)の率を高くしたければ、やはり射ったほうがいい」と村中氏は無条件にワクチン接種を薦めていますが、ワクチンによって子宮頸がん発症予防の率が将来的にどうなるかなどは明らかになっていませんし、未だにデータも出ていません。
一方で、HPVワクチン接種によって標的の16/18型による軽度の子宮頸部異常病変は減ったが、他の高リスク型による異常病変は実質的に増えたというデータも出ています。
この臨床データについては、葉月さんがブログ記事、「ワクチンを接種すると16/18型以外のHPVと関連する軽度異形成が有意に高くなる」で紹介されています。
NATROM氏のミスリードなコメントと私の批判コメントも合わせて参考にしてください。
以上のようなことを十分に説明せずに、ただ単に「20代ぐらいまでであれば、射って十分に効果がある」と接種推奨だけを安易に強調するのは、「医療ジャーナリスト」の解説としては粗雑で無責任なものだと言わなければならないでしょう。
したがって、「村中さんは確かに子宮頚がん患者の診療をしてはいないのでワクチンを広めようというより、1科学者(医師)として偽りの科学は許さないというのが基本でしょう。」という村中璃子氏を擁護するPOWriter氏の論理は、彼女の実際の言動とは齟齬のある的外れなものです。
「偽りの科学は許さない」とは、デメリットやマイナス面のリスクを適切に避けるための情報も隠さず十分に提供するということも含意しています。また、それなくして「真実の科学」などと自負することもできないでしょう。
さらに村中氏の発言には、未認可で販売もされていない9価ワクチンについて、司会者から求められてもいないのに、その効果を先行的かつ大々的に宣伝しているという問題点もあります。
POWriter氏への反論という本題からは少し逸れますが、POWriter氏と同じく村中氏がワクチンを接種していないことを問題視する人を批判し、村中氏を擁護するために、あまりにも粗雑で的外れな論理をtwitter上で振り回した方がいます。
twitter界隈ではHPVワクチン推進派として知られる園芸家氏(twitterのアカウント名:園芸家@engeikana)のツイートです。
> ワクチンを推奨する人がワクチンを受けているかどうかは、ワクチンの効果には関係ない。
「推奨する人」が実際に接種しているか否かはそれなりに大事なポイントで、「関係ない」ことではありません。
ワクチン接種の適用外(たとえば性別や適用年齢が合わないとか、既に感染しているなど)でないにも関わらず接種していなければ、「ワクチンを推奨する人」の言説には説得力がないと思われても仕方がありません。それどころか、「ワクチンを非常に熱心に推奨する当の本人が接種していないのは、人々に広くワクチンの恩恵が行き渡ることを本当に心から願っているというよりも、利益相反(たとえば人々に推奨することによって製薬会社から経済的恩恵を受けている等)による動機が裏にあってワクチンを勧めているのでは?」と疑われても不当とは言えないでしょう。
また、ワクチン接種の適用外という合理的、医学的理由があって接種しないのであれば、そのことについてはしっかり説明すべきで、それがなおざりにされていれば、「ワクチンを推奨する人」の言葉に信頼性と説得力はなくなります。
> 接種した人が推奨するものなら、どんなインチキなものでも接種するのか?
これは反論のための反論ともいうべき乱暴な論理。
「推奨する人」が実際に接種していることは、「推奨する人」の言説の信頼性を考える上でのひとつの判断材料。「推奨する人」が接種しているからといって、ワクチン接種を受け入れるとは限りません。
『村中璃子氏の言説を全面的に擁護する神経内科医のブログ記事に反論する(その2)』に続く....。