台湾総統選について書いてたのにずっと総括してなかったので気になってた。
選挙の結果、中国からの干渉を拒み独立台湾を主張する与党、民進党の頼清徳が勝利し、中国共産党と深いつながりのある国民党の侯友宜や、民衆党の柯文哲を退けた。
これによって中国共産党が目論む台湾統一が、台湾内部から行われることは当面阻止されることになった。世界が胸を撫でおろす結果だったわけだが、逆に言うと中国による軍事的侵略の危機が高まったとも言えるので、喜んでばかりもいられない。
今回国民党と民衆党の野党2党が敗北した大きな要因は、この2党が統一候補を立てようと話し合いを重ねていたにも関わらず、どちらの党も自分が統一候補として出馬することを譲らなかったため話し合いが物別れしたことだ。結果、それぞれが候補者を立てることで野党の票が分断され与党が勝利することになった。2野党は投票結果が2位3位だったが、両党の票を合わせると1位の民進党を大きく上回っていた。
両野党はどちらも中国の浸透工作によって中国共産党と深く繋がっていて共通の目的があったにも関わらず、なぜこのような物別れになったのか。私はある意味、台湾人の商売人としての気質が強く働いた結果だったのではないかと思っている。
もう20年近く前のことになるが、台湾で市場開拓をしたことがあった。ある業界で使用する主要な材料を売るためのルート作りを主目的にしていたので、まずその業界の調査を行った。当時のインターネット上ではその業界の情報はほとんどなく、関連した会社の名前くらいしか分からなかったため、とりあえず検索できる業者を全てリストアップし、現地に行ってリストの業者を順番に訪問し営業し、業界の情報を調べていった。台湾の人はみんな無茶苦茶親切だし、陽気でフランクだし、親日的だし、最高に好きな国になった。しかし、繰り返したくさんの業者と話しをしていく内に痛感したことがあった。こと商売に関しては、とにかく腹黒いというか自分の利益を最大化するために義理や人との繋がりや信頼などはないがしろにするような印象があった。例えばある会社に行きそこの社長と商談をする。その時はとても和やかに楽しく、これからの商売の発展を期待させるような話をたくさんしてくれる。しかし私がそこを出て他の会社へ移動している間に、その社長は業界内の取引先に次々連絡を入れ、「今日本の〇〇が来てこういう商談をしていった、お前のところでこの材料はいくらで手配できるんだ。」というような話をする。狭い業界だから巡り巡って話が私の耳にも入ってくる。そのため行く先行く先の会社で、「昨日の午後はあそこの会社に行っただろう、あそこに売らないでうちだけに売ってくれ」とか、「うちはその材料をあの会社から仕入れているから、直接仕入れさせてくれ」とか、「うち一社だけ仕入れして業界にはうちから卸すようにしてくれ」とか、そんな話ばかりだった。ちょっと言い方を悪くすると、自分らの利益を優先して業界内の仲間は裏切るというか、既存の関係性をあまり考慮しないような話が非常に多く、自社が仕入れる金額を安くして利益を得たいというよりも、自社がその材料を取り仕切る窓口になって業界全体に卸すことで利益を独り占めしたいというような話がとても多かった。
専門性の高い商品を扱う商社の基本的な考え方は、その業界の成長と安定を基盤とし、業界に深く浸透して長い期間商売をすることだと思っている。短期的に爆発的な売り上げを目論むと、それまで長年続いてきた業界の均衡を急激に壊すことに繋がり、業界全体が崩壊することに繋がりかねない。もちろんそのような均衡を破壊することで成功する業界もたくさんあるわけでそれを否定してるのではない。あくまでも、限定的で専門性の高い業界の中で「業界内の業者」を相手に専門的材料を卸す商売をする場合の話だ。細々と生きながらえてきた狭くて小さい専門的業界で長年かけて形成された業界内の微妙なバランスを、そこに介入した新規商社が引っ掻き回して壊してはいけない。
だから私は商談を重ねることで業界全体の繋がりや関係性などを把握することにまずは注力した。その上で、業界内の既存の材料の流れを壊さないようにその商流で材料を卸すようにした。行く先行く先の会社で既存の商流ではなく直接材料を仕入れて商流の最上流にいきたいというような話が上がったが、別物の新しい商材を提案したりして既存の商流を壊さないように努めた。最終的には、日本から台湾へ輸出されるその材料のシェアは100%とることができた。
その後、私は中国への駐在が決まり、台湾での仕事は上司に引き継いだ(正確には部下に引き継いでその部下が上司に引き継いだ)。私は基本新規開拓は一人で行っていた、なぜなら新規開拓は失敗することが大前提であって、成功すればめっけもんと考えていたからだ。成功確率の高くない新規開拓に複数人で行けばその分の経費が無駄になる可能性が高いわけだ。ところが引き継がれたその人は、海外に一人で出張することに慣れてないこともあり、海外経験豊富な同業界のメーカーの人を連れて行った。これは海外の商売で商社が絶対やってはいけないことだ。台湾の業者達にとっては、メーカーと直接取引するのが一番望ましいことだ。彼らにとって、間に入る商社は利益を抜き取る邪魔者でしかない。当然それから後は、商売の話は全て台湾業者からメーカーへ直接行くことになった。
通常のメーカーならそういう場合、顧客に対し「うちからは直接出せないんで、〇〇商社さんを通してください」などと伝え商流を守ろうとするものだ。メーカーがお客を紹介してくれた商社に対する裏切り行為をしてはいけない。ところがこの時連れて行ったメーカーの担当者は社長の息子で次期二代目社長となる人だった。海外留学の後自社に入社しそのまま海外担当となったため国内の自社の商売にはあまり関わることなく実績の無いまま専務となり、社内的にも自分個人の実績が欲しい状態だった時であった。だからだろうか或いは思慮の浅さからだろうか、次々に台湾業者から持ち掛けられる商談を積極的に受け入れ、彼らが業界内でお互いを裏切り合うのを手伝うような形になった。メーカーが目の前の売上げを優先し商流を無視した結果、私の会社には台湾からの注文は来なくなり、台湾の業界から完全に蚊帳の外になってしまった。台湾のその業界のバランスは完全に壊れ、新進気鋭の若者が率いる会社が価格破壊を始め、終戦後から細々と続いていた多くの古参業者は消滅、競争相手が無くなっていくとともに元々縮小傾向だったその業界の需要自体が激減した。古参業者との繋がりがあったから生まれていた需要が、古参業者の消滅とともに消えたのだった。例えば、親の代から付き合いのある老舗の和菓子店があり、お盆と正月、親戚が集まる時にふるまう用の大福もちを大量に注文する決まり事が、ご近所さん付き合い的なこともあって何十年も続いているとする。しかしある年、この老舗和菓子店が商売をたたんだとする。その家はわざわざ別の新しい和菓子店を探すだろうか。近所のケーキ屋さんで美味しいと評判のアップルパイに変えるかもしれないし、ネットの取り寄せスイーツにするかもしれない。これに似たような現象が台湾のその業界で起こったのだった。その結果台湾のその業界の市場規模は会社の事業として成り立たないレベルまで衰退した。市場が限定的で縮小気味である「大福もち業界」内で、短期的な利益を求めた小豆生産者が乗り込んできて商流を破壊し直接卸しを始めた結果大福もち業界が消滅したようなものだ。このような所業は結果的にメーカーそのものの生業を苦境に追い込むようなことに繋がりはしないだろうか。
話が脱線し過ぎたから元に戻す。
私が先の話でしたかったのは、台湾の人の、こと商売に関しての妥協の無さ、特に仲間内に対して激しく対抗する感じ。これは台湾人の気質のように思っている。今回の総統選において野党が統一候補を出せなかったのは、この気質が大きな要因だったのではないかと思っている。
国民党と民衆党はそれぞれが中国共産党と繋がっているのは公然の事実であるが、これはつまり、それぞれが現状、中国絡みの利権を握っているということだ。もしも統一候補を立ててその候補が総統になったとしたら、台湾国内における中国利権の全てをその総統が掌握することになる。そんな巨大な利権をやすやすと相手に渡すようなことは、台湾人気質的にあり得ないように感じる。これが統一候補を出せなかった最大の理由だと思う。
日本でも河野太郎を筆頭に多くの自民議員や野党議員、国会議員だけではなく地方議員やこないだ再再選した東京都知事までもが中国利権を得ている。彼らは私利私欲のために国民や国家の利益を犠牲にするクズだ。しかしそれらの利権を総どりして全ての利権の窓口になろうという発想する日本はなかなかいない。この辺りが商売に関しての大きな気質の違いであるだろう。逆に言うとその気質のお陰げで台湾の中国化が阻止されたのであるから、世の中分からないものである。
日本のマスコミでは取り上げてないが、先日習近平が脳梗塞で倒れたという情報が世界を駆け巡っている。これが本当なら今後の台湾情勢に大きな影響があることも考えられるし、これが間違った情報だったとしても、年末にはアメリカ大統領選挙に伴う混乱などの、中国が行動するきっかけになりそうなイベントもある。引き続き注視していこう。