彼はいつも通り話をする。
じっと目を見て喋る癖、不快にならないボディタッチ。沈黙の居心地の良さ。
人を勘違せてしまう、困った人たらし。
私はその誰かの1人だった。
彼と話すたび胸が熱くなるが、同時に「私じゃない」という答えははっきりしていた。
理由は明確だ。私より可愛くて、明るくて、スタイルがいい子はたくさんいる。中学生の頃から嫌でも分かっていたこと。
一方私は、体格が良くて、太っている。鏡を見るたび自信を失う。今世はショートパンツのお世話にならない。
大学生のとき、少し動いてみた。
いつもの地元メンバーで遊んだ帰りに「車乗せて送って欲しいな」と勇気を出した。「あぁ、いいよ」とあっさりした返し。なんとも思ってない返し。
飲み会で彼のレモンサワーを「一口ちょうだい!」と少し飲んでみた。キャラじゃない行為が、流石に恥ずかしかった。彼の顔は見れなかった。少し後悔。
動いたのはこれだけ。これが私の最大限のアピールだった。
なんたって自分に自信がないから。
気持ちを試すことも、近づくことも、綺麗になる努力もしなかった。
好きだと気がつかれないよう、ただ思っていた。
嫌われたくないから。話せなくなることが怖いから。
月日は流れ、私は別の人と出会い、結婚した。穏やに幸せに暮らしている。
年に一、二回地元の仲間と集まる。あの人への想いはとっくに消えているはずだが、彼の姿を見ると胸の奥が小さく揺れる。
積極的にこちらから話しかけることはないが、
同じ空間にいるだけで、少しだけ空気が変わる
私の結婚を聞いて、あの人は何を思ったのだろう。
ほんの一瞬でも、寂しいと感じたりしたかな?
リップ塗り直したいな。
今、前髪割れてないかな。
そんなこと考えてる自分に、今さらなにを、と苦笑する。
もう好きじゃない。
それでも、意識してしまう。
あの頃痩せていて、
もっとおしゃれに気を使って
自分に自信を持てていたら
違う青春があったのかな。
想像することだけは、今もやめられない。
告白することなく終わった恋。
何も始まらず、何も壊れなかった。
それは少しの寂しくて、でも確かに、素敵な思い出だった。
