6畳間とベットの上から -2ページ目

6畳間とベットの上から

思ったこと書いたり 浮かんだこと書いたり

海が見たくて海がある方向に歩いた
途中で飽きて電車に乗り車窓から海を見た
山が見たくて山登りをした
地面しか見えなくて山は見えなかった
人が見たくて街に出た
友人とすれ違って振り向いたが人違いだった
音が聴きたくて音楽を聴いた
激しい音が聴きたかったが物静かな音に落ち着いた
本が読みたくて本を開いた
数ページ読んでテレビが観たくなった
話がしたくて友人と会った
いつの間にか相手の話しに相槌ばかり打っていた
息がしたくて息をした
ため息しか出なかった
夕陽が見たくて近くの歩道橋まで歩いた
階段とビルばかり見ていて時間が過ぎて陽は沈んだ
月が見たくて夜まで待った
見えたのはただの明るい球体だった
星が見たくて夜空を見上げた
いつも通り霞みがかって見えなかった
夢が見たくて横になった
疲れが溜まるだけだった
生きたいと思った
同時に死にたいと思った
入り口の看板や、雰囲気の良いお店を見ると入りたくなる。
ですが、一人だとなかなか入れません。
小さなカフェやバーにとても魅力を感じる。
チェーン店ではなく、個人でやられている店なら更に良い。

年下でも年上でも、その人にしかない魅力というものがありますよね。
私は年上の人が時々見せるかっこ悪い所が好きだったりします。
みなさんは如何でしょうか。                        ナコ

蒸し蒸しして寝苦しい夜。網戸にした窓から申し訳程度に風が部屋に流れ込む。扇風機が静かにカラカラと音を立て、首を振りながら部屋に微風を運ぶ。クーラーのコンセントは抜いてあり、なるべく使わないようにしている。暑さには強い方だが、参ってしまっては元も子もないなとも考える。
布団に寝転んでからどれくらい経っただろう、なかなか寝付けずにいた。頭に、額に、脇に、首筋に、膝裏に。毛穴という毛穴から汗がジトッと出る。ペタペタして不快だ。
タオルケットを掛ける事すら暑くて敵わないのだが
「お腹を冷やさないようにせめてお腹には掛けておきな」
と、幼少の頃母親に言われた事を25歳になった今でも守っている。胃腸は弱くないのだが、昔からやっている事だから体に染み付いてなかなか抜けない。
月の光がカーテンの隙間から差し込んで部屋はぼんやり明るい。壁に目をやり、暗闇を凝らして見ると、時計は午前1時を指している。
ボーッとしていても寝れないので汗を流したく、浴室へ。服を脱いでから、シャワーじゃなくて湯船に浸りたいと思い、湯を張り始める。蛇口から勢いよくお湯が出るのを風呂椅子に座りながら眺める。ずっと眺めているとなんだか落ち着く。
お湯が溜まる前に頭や体を洗ってしまう。スーパーでも買える安いボディーソープ。立ち込める湯気に乗って、浴室にボディーソープの石鹸の匂いが広がる。バラだとかスパイシーだとかの匂いが苦手なのでこういう庶民的な匂いが好き。シャンプーはジャスミンの匂いのする少々高いものを使っている。身の回りのなにもかもにお金は掛けれない。削れる所は削っていく。頭からお湯をかけ、体の泡も一緒に流していく。泡が流せればいいのだ、流せれば。
全身を洗い流し、蛇口を閉め湯船に浸かる。汗を洗い流せてスッキリし、口からふーっと息を漏らした。お湯が次第に体にまとわりついて来る。足は伸ばしきれないが、そんな窮屈な浴槽も嫌ではない。体温の上昇と共に、体がお湯と同化して行くような気がした。ボーッとすればするほど感覚や意識を奪われるような、そんな感じがした時、不意に意識が遠くなった。


仕事で小さなミスを連発し、足取り重くとぼとぼと家に帰る途中。ふと小さな看板が目に入った。
木枠で囲った黒板、字を照らす小さなライト、チョークで文字が書いてある。イタリアンのお店やカフェの入り口にありそうな立て看板。ガラス窓から店内が見える。
どうやらバーのようだ。お酒は好きだけどこういうお店には入った事がないなと思い、思い切って入ってみる事にした。お酒でミスのくよくよを吹き飛ばそう、そうも思って。
チリリン、入り口に付けられた小さなベルが鳴る。いらっしゃいませ、とカウンターに居る男性が言ったので軽く会釈をして入店。
カウンターには、白髪が目立つ髪を低い位置で結んでポニーテールにしているおじいさんと、20歳くらいの若い男の子が居た。
店内はカウンター席が4つ、2人掛けのテーブルが3つのこじんまりしたお店で、眩しくないフロアライトと、壁に取り付けられたスピーカーからはジャズが流れていて、微かにコーヒーの香りがした。居心地は悪くない。
昼間は喫茶店をやっているのだろうか、と思いながらカウンターの席に座る。
来慣れていないせいか少しキョロキョロしてしまう。私以外にもカウンターに1人、テーブルに2人のお客さんが居た。
「バーは初めてですか」
と、白髪のおじいさんに話しかけられた。多分マスターさん。
「あっ、はい」
キョロキョロしてたのを見られていたかな、恥ずかしい。
「ご来店ありがとうございます。ゆっくりしていって下さいね」
男性は柔らかく微笑んでから、テーブルのお客さんの方へグラスに入ったカラフルなカクテルを運んでいく。
その笑顔に少しほっこりする。
手近にあったメニュー表を見てみる。カクテルの名前の下に、このお酒プラスこの飲み物を混ぜています、という書き方がされていて味の想像がしやすく、初めて来る人にも分かりやすい気配り。
一通り目を通してみたが、これと言って今飲みたい感じのものがなく悩んでいると
「飲みたいものはありましたか」
と、小皿に盛られたミックスナッツを持って、若い男の子に尋ねられた。
「えっと、甘めで飲みやすいものってありますか?」
と、訊いてみた。
「そうですね、好きな果物はありますか」
苺が好きと答えた。
かしこまりました、と男の子は言って、カウンター内の台に置かれたシェーカーにお酒や氷を用意し始めた。
おじいさんと似て優しい笑顔。失礼かもしれないけど、かっこいいというより可愛い男の子だ。
ミックスナッツをつまみながら、お酒が出来るのを待ちつつ男の子を見ていた。
身長は私より少し大きくて細身、ちゃんと食べてるのかなこの子。と、おばちゃんじみた事を考える。最近は細い男性が多い、足が簡単に折れそうなくらいの子を街でよく見かける。カップルで居ると、隣を歩く女の子を少し可哀想に思う。
などと思ってるうちにグラスが運ばれてくる。
「お待たせいたしました」
グラスがコースターの上に置かれる。綺麗な赤色をしている。
とりあえず一口飲んでみる。甘くて美味しい。何が入ってるかは分からないけれど、苺の味が引き立っていてとても飲みやすい。
「お口に合いますか」
と、訊かれたので私は首を縦に振った。それは良かったです、と男の子は笑顔で言った。
こういう味が好き、こういうものが好き、と言っただけで作れるんだからバーテンさんて凄い。
軽く飲み干し、次のお酒も男の子に注文した。メニューにチョコの盛り合わせがあったのでそれも頼んだ。板チョコとトリュフ。ほろ苦と甘めの2つの味。甘いものを欲しているのは疲れているからなのかな、と酔い始めた頭で思う。
それから更に3杯頼んでからお会計をお願いした。視界がぼやっとして足元がおぼつかない。飲みやすいからって飲み過ぎた。
大丈夫ですか、とマスターのおじいさんに尋ねられ、大丈夫ですと返答したが、呂律が回らずにふにゃふにゃしていたと思う。
なんとか入り口から外へ出た。外の空気は生温くて気持ち悪さが増した。
さっさと帰ろうにも足元はフラフラする。お店の壁にもたれかかって休憩していると、店から誰か出て来た。あの男の子だ。
少し困った顔で微笑みながら
「その、マスターが行ってやりなと言うので」
なんで私が帰れず店先に居ると分かったんだろうと、周りを見る。もたれかかってた壁の近くにガラス窓があり、ガラス窓から店内に居るマスターのおじいさんが見えた。私が目をパチクリさせていると、目が合ってウィンクされた。どうやら店内から見えていたらしい。
私はその場に座り込んで手で顔を覆う。酔いと恥ずかしさのせいで顔が熱くなった。
「こんな酔っぱらいの相手させてごめんね」
と、地面を見ながら彼に言う。
「いえいえそんな、立てますか」
と、彼は手を差し出してくれた。手を借りつつ立ち上がる。まだフラフラしている。
「この近くに住んでいるんですか」
「うん、ここの道を真っ直ぐ行って、角を曲がったところにあるマンション」
近いのだが、これだけ酔ってるとこの距離さえ遠く感じてしまう。
うーん、と小首を傾げ彼が悩んでいる。少し待ってて下さい、と言って店に戻っていく。なんだろうと思っていたらすぐに出て来た。
「許可が取れました。では行きましょう」
と、彼が言った。どこへ、と思ったがすぐに分かった。家まで送ってくれようとしている。
「すぐそこだし1人で帰れるから、大丈夫だよ」
と、若干早口で手をブンブン振り、断ろうとするが
「その靴で帰れますか」
と、言われ自分の靴を見る。少し高めのヒール。悔しいが何も言い返せなかった。下手したら足を挫くだろうしヒール部分が折れてしまう、となんとも言えない顔をしてる私を尻目に
「諦めて下さい」
そう言って彼は私の手を軽く掴んでゆっくり歩きだした。急に掴まれたのでドキッとした。結構強引なところがある子だなと思いつつ、従って一緒に歩き出す。男の子の手はひんやりとしていて、酔った私にはその冷たさが気持ちよかった。
自宅までの帰り道をゆっくり歩きながら
「名前はなんていうの」
と、訊くと
「慎也といいます」
と。
「お姉さんはなんていうのですか」
と、訊かれ
「真矢。真っ直ぐな弓矢の矢で真矢」
と。
「真矢さん、お姉さんらしい名前ですね」
と、慎也くんは言った。私らしい、そうなのかな。あまりくよくよはしないし、どちらかと言えば物事をはっきりさせたいと思う。だから、彼が言う「らしい」がそういう事だったら、らしいと言えばらしいのかな。でも名前を訊かれた時の返しって大体こんな感じか、良い名前ですね、とか。そう考えていたら
「お酒は美味しかったですか」
と、訊かれたので
「とても美味しかった。こういうのが良いって言っただけで作れちゃうんだもん、凄いね。また行かせてもらうね」
と、答えた。お待ちしています、と彼は笑顔で言った。
角を曲がり、自宅のあるマンションが見えて来た。
「もうそこだからここで大丈夫、ほんとうにありがとう。助かっちゃった」
感謝を込めて私は言った。
「いえ、こちらこそ少し強引な事をしました」
と、彼は申し訳なさそうに言った。
「私が悪いんだからそんな顔しないで、ね」
と、私が言うと彼は微笑んでくれた。その顔に少しドキッとする。
ではまた、お待ちしております。と、彼が頭を下げ、お店に戻ろうとした時、待って、と私は呼び止めた。
「お礼がしたいから連絡先教えてくれないかな」
と、私は言った。お礼をされるような事はしていませんので、と言われたが、私の気が済まないから教えて、と半ば強引に連絡先を聞いた。彼は困った顔をしながらも了承してくれた。
彼と連絡先を交換し、再度お別れをして、自宅のドアの鍵を開けた。玄関に入り、ドアの鍵を閉め乱雑に靴を脱いでキッチンへ行く。コップに水を注いでゴクゴク飲み、一呼吸吐いてから部屋に戻った。化粧も服もそのままにベッドへ倒れ込む。左手にはさっきまで彼と握っていた手の感覚が残っている。ひんやりしていて、柔らかいけど筋張っていて指が長い。心臓が耳元でバクバクと音を立てて全身に血液を送っている。
顔が熱い。お酒のせいなのか、それとも。
最愛の人が居なくなった。そんな状況になったらどうするのだろうか。
悲しいから死ぬ。最愛の人のために生きる。どうだろうか。
兎にも角にも、引きずらないという事はないだろう。
死人に口なし、居なくなってしまった人の思いが分かる時は恐らく来ません。
自分だったら、引きずりながらもどこかでは晴れやかに明るくいてほしい。
あなたには笑っていてほしい、我が儘な私はそう思ってしまいます。  ナコ
これを読んでいるという事は、僕はもうこの世に居ないと思います。

結花、話したいことがあります。

低血圧で朝が弱く、なかなか布団から出て来ないのを何度も起こしに行かされます。眠そうに起きて来たと思ったら、洗面所で顔を洗った後は目がシャキッとしてて、テレビを見ながらなんだかよく分からない体操を情報番組のアナウンサーと会話しつつ始める。布団から出てこれないのが嘘のように思えます。その光景を見て毎日気付かれないようにクスッと笑っています。

ご飯をのんびり食べるから、着替える時間が迫ってもまだ食べてる。
「着替える時間大丈夫?」
と、訊くと急いで朝ご飯をほっぺたに詰める姿はまるでハムスターだなって思っていました。

家を出る時、玄関にある鏡を見て、眼鏡の両サイドのフレームを両手の指でクイクイッて押して眼鏡の位置を直す。
「癖なの?」
と、訊くと首を振る。そしてまた眼鏡がずれてまたクイクイッて直す。癖だよねこれ。

自分からは何故か、いってきますと言わない。
「いってらっしゃい」
と、言うと
「いってきます」
と、返してくる。
なんで自分からは言わないのか分からないけど、それで慣れたから違和感はなかった。聞いたこともなかったかも。

コップ1杯も飲めばベロベロに酔ってしまう程お酒が弱いのに、仕事の愚痴を言う時は必ずお酒を飲んでた。テーブルに突っ伏して、今日あった事を一から喋り始める、喋り続ける。愚痴を吐いてると言っていたけど、初めから全部話すから1日の報告のように僕は聞いていました。

休みが合い、デパートに出掛けて、雑貨屋さんの商品をジッと見つめていたから
「欲しいの?」
と、訊くと
「ううん、要らない、欲しくない」
そう言って手を引っ張りそこから離れるけど、後ろ髪を引かれているように見えました。その後、ご飯の買い物をして帰る時、バレないようにこっそりとプリンを買い物カゴに入れ、家の冷蔵庫にしまっておくと、見つけた時に凄い真剣な顔をして僕とプリンを交互に見る。
「それで我慢しなね」
と、言うと
「うん!」
と、まるで子供のように無邪気に返事をし、わーわーと声を上げながら嬉しそうにプリンを食べ始める。我慢させるために買ったのではなく、その嬉しそうな顔が見たいから買っていたんだよ。

寝る時は電気を真っ暗にしないと寝れないのに、真っ暗だと怖いと言ってこちらを向いて必ず手を握りながら寝る。真っ暗で見えないだろうけど、僕はすごくにやけていただろうから真っ暗で助かりました。

深夜にお腹が空いて、いっぱいお菓子を食べているのを見つけて怒った時があった。ぶすっとしながら布団に避難していじけるのはなかなかに対処に困るのでやめてね。

時たま突飛な動きをしたり、変な癖があって、頑張り屋で恥ずかしがり屋、ちょっとバカなところもあって、プリンが大好き。

そんな結花が僕は大好きです。

こんな僕で良いのかなと思った事が何度もありました。
僕と居て幸せなのかなって思った事もありました。
もし幸せと思ってくれていたなら本当に嬉しいです。
ありがとう。ごめんね。

結樹より





最後まで手を付けれずに居た結樹の部屋。部屋と言っても、デッドスペースを活かした小部屋なのだけれども。結樹は自慢げに
「書斎だよ書斎」
と、言っていた。机と椅子と本棚が少しのそんな部屋。
机の上に置かれたままのノートパソコン。そんなに使われていなくて閉じている状態のノートパソコンの隙間に1枚の紙が挟まっているのを見つけた。
紙を抜いてみると、
「0620」
と、書かれていた。私の誕生日と同じ、そう思った。パソコンに挟まれていたって事はパスワードとかかな。そう思って電源ボタンを押してパソコン立ち上げる。少ししてパスワードを求められた。紙に書かれた数字、私の誕生日と同じ数字4桁を入力すると
「ようこそ」
と、文字が出てホーム画面に移動する。壁紙には満開の桜をバックに、私と結樹が腕を目一杯伸ばして横向きにしたスマホの端と端を持って撮った写真が使われていた。
初めて一緒に出掛けた時だっけ、手を繋ぐのが恥ずかしくてなかなか繋げなかったな。思い出が蘇る。
ホーム画面には左上にフォルダが1つポツンとあるだけだった。
フォルダ名
「.」
ピリオド。その1文字。文の最後に付ける文字。
開いてみると文書のファイルが1つ。
ファイル名
「結花へ 必ず見ること」
見たくない。見てしまったら何もかも現実だと受け止めなければならない。
心臓の鼓動が速まる、呼吸が乱れる、堰を切って涙が出る。でも、今見なければもう見れないと思った。涙で滲む視界の中、私はファイルを開いた。

しばらく涙が止まらなかった。どんなに泣いても結樹はもう居ない。頭を優しく撫でてはくれない。優しく抱きしめてはくれない。フローリングの床には涙で出来た小さな水たまり。むせび泣き、握っていたパスワードが書かれた紙は涙でクシャクシャ。数字は滲んでもう読めない。頭がガンガンする。まだ呼吸が苦しい。
鼻を啜りながら、開いていた文書のファイルを閉じる。
「結花へ 必ず見ること」
見ました、見ましたよばーか。そう言いながらファイルを閉じた。
ホーム画面。ピリオドの名前が付いたファイルが1つ。ファイルにポインタを合わせ1回クリック、少し間を空けて、名前の部分を1回クリック。ファイル名の部分が反転する。バックスペースを押してピリオドを消す。代わりに私が打ち込んだ文字は
「,」
カンマ。その1文字。あなたとはまだ終わりたくない、そんな意味を込めて。