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Fuminori Nakatsuboのブログ

保育・幼児教育の理論と実践に関する記事を投稿します。

 「背中の保育」とは,保育者が自らの背中を介して乳児の主体的な遊びを保障したり,遊びの 空間を確保したり,彼(女)らが自分の力で動き出すまでの猶予を与えたりするようなアプローチのことである(水野・中坪 2021)。以下, 具体的なエピソードを紹介する。

[エピソード 1]自分だけの世界へ(8 月) (エイスケ/男児/1歳7ヵ月)

 朝いつも泣いて,あまり遊べていないエイスケが部屋の隅でコインを入れ物に入れる遊びに夢中になっていた。やっと遊びを見つけることができたのだ。こんなに集中して遊んでいるのを私は見たことがなかった。そこで私は,そっと後ろ向きに座り,背中で「壁」をつくってエイスケが遊ぶ空間を確保した。敏感な子だけに私に覗かれていることが分かると遊びが止まってしまうのではないかと思い,背中で遊んでいるエイスケを感じていた。そしてそこに入って行こうとする別の子を受けとめて私の手元で一緒に遊ぶことで,エイスケの遊びを確保した。エイスケがコイン入れを楽しむことのできる居場所づくりをしたのである。

 乳児に対して保育者は,背中を通して「何かあった ら,いつでも来ていいよ」というメッセージを送りな がら,ゆっくりと関係性を持とうとしている。[エピ ソード 1]において保育者は,集団の中で集中して遊 ぶエイスケの世界を壊さないようにするために,背中で「壁」をつくっている。

初出掲載誌:水野佳津子・中坪史典 2021 「乳児に対する保育者のアプローチとしての「背中の保育」」『乳幼児教育学研究』第30号 53-62頁