「ただいまー」
呑気な声は智だ。
てかね、ここはあなたの家じゃないでしょう?
ただいまっておかしいからね。
なんて、どうでもいいようなヤキモチが頭を掠める。
「ただいまって、智くんの家じゃないでしょ」
翔さんが早速つっこんでるのも聞こえてきて、うんうんって頷いてたら、こっちを見てニヤッと笑う潤くんと目が合った。
なんか恥ずかしい。
智のせいだから、後でパンチしてやろうとか思いながら下味をつけた鶏肉に醤油をまわしかける。これで香りが全然違ってくる。どうせなら美味しいもの食べさせたいなんて思って、世話焼き母ちゃんみたいな自分の思考にもちょっと呆れる。
「カズ、耳、真っ赤」
そっと隣に立った潤くんが、俺の耳元で小さな声でささやいてからパスタのお湯を沸かし始める。
マジで...恥ずかしすぎる。
言われなくても気づいてた熱い耳。
恥ずかしさを無視して、もう一度油を火にかけるとリビングのドアが開いた。
玄関の靴でみんながいることには気づいてたらしい翔さんが、いつもより目を丸くしてキッチンの俺たちを見てる。
「雅紀...これってもしかして....」
キッチンカウンターでひたすら餃子をにぎってた相葉さんが、慌てて振り向いた。
「翔ちゃん!!おかえりなさい!あの...あのこれは....えっと....」
焦って支離滅裂になりながら、餃子をにぎったままの手で翔さんの方に歩いていこうとしてるから、こっちも慌てて止める。
「ちょ!まず手!手ぇ洗いなさいよ」
「あ、そっか!翔ちゃん、ちょっと待ってて!」
「いや雅紀、慌てなくていいから。手も洗わなくていいよ。まず、俺と智くんが洗ってくるから待ってて」
さすが翔さん。相葉さんが慌てるのには慣れてるな。
優しく笑ってコートとカバンを置くと、智を促して洗面所へ行った。
「どーしよ、かずくん。翔ちゃん帰ってきちゃったよ」
「そうですねぇ。智になるべく遅く帰るように言ったんですけどね」
「撮影、順調だったのかなぁ」
「でしょうね」
まだ焦ってる相葉さんに返事をしながら油の温度を確かめる。まだ少し低いかな。
「まぁ、帰ってきちゃったんだし、ネタバレでしょ?」
「ですな」
「えー」
潤くんの冷静な意見にさっさと同意する俺と、えーってまだ言ってる相葉さん。
潤くんは湧いたお湯にパスタを投入した。
「とりあえず、餃子にぎっちゃったら?」
「あ、そうだね。うん。そうする」
俺はちょうど良い温度になった油の中に衣をつけた鶏肉を優しく入れていく。
パタパタと粉をはたくと目の前が少し白く煙った。
ジュワジュワパチパチっと油の音がして、泡に包まれたようになる鶏肉。
ほんの少し静かになったリビングに、バタバタとした足音が近づいて、智と翔さんが洗面所から帰ってきた。
「改めまして。ただいま」
なんだか嬉しそに、だけどちょっとだけ照くさそうな顔した翔さんがおどけたように言って、相葉さんの隣に立った。
それから俺たちと部屋の中を見回して
「これってサプライズパーティーだよな?」
って言った。
相葉さんはやっちゃったって顔してるけど、翔さんは本当に嬉しそうで。
「雅紀、これもお前が用意してくれたの?だから昨日会えないって言ってたのか....」
そう言ってもう一度部屋の中を見回した翔さん。
その目線の先には天井からぶら下がる国旗たちと、壁に貼られたHappybirthday!!!のステッカー。
それから可愛いメッセージ風船。
きっと床に散らばるたくさんの風船も、相葉さんは昨日、一生懸命膨らませんたんだろう。
俺と潤くんも、さっき部屋に入って驚いたもんね。
驚く俺たちに、誇らしげに笑ってた相葉さんの顔は輝いてた。
こんなの翔さんが喜ばないわけがない。
感極まったみたいに言葉に詰まった翔さんが、餃子を持ったままの相葉さんをぎゅっと抱きしめた。
「雅紀、ありがとう」
「うん。翔ちゃんお誕生日おめでとう」
そんな2人をみて笑って俺にウィンクしてきたJ。
カッコよすぎるそれにお返しのウィンクをしたら、ものっすごい機嫌の悪い智の顔が目の端に入った。
.....俺、やっちゃった?