「かずくん」
突然呼ばれたその呼び名は、完全にプライベートの時のもの。
その呼び方で俺を呼ぶのは、俺の唯一の幼なじみで底抜けにお人好しのアイツ。
少しだけ困ってる時やなんとなく寂しい時に呼ばれることの多いそれ。 俺へのほんのちょっとの甘えがその呼び方の向こうに見えて、めんどくさいようなくすぐったいような複雑な気持ちになる。
それでも無視するなんて選択肢はそもそも存在しないわけで、今日も俺はスマホゲームから目を離さずに返事をした。
「ナンデスカ?」
「ちょっとかずくん。何そのカタコトの返事!めんどくさいと思ってるでしょ」
「エ?ソンナコトナイデショ?」
「もう!小首かしげても俺は騙されないよ!おーちゃんはいつも騙されてるけど....」
「失礼だな。俺は智を騙したりしませんよ?」
「嘘つくなよ!こないだだってさ....」
思いきり逸れ始めた会話に、俺のひざ枕で寝転んでた智が笑いだす。
そのまだセットされていない柔らかい髪をスルスルと指で梳くと、気持ち良さそうに目を閉じた。
「ほら、笑われちゃってんじゃん」
「ええー!俺のせい?かずくんが聞いてくんないからじゃん!」
「はいはい。ごめんねまーくん。で、何だった?」
「うん。あのさぁ.....」
ごめんねと上目遣いで謝れば、ちょっと困ったような顔をして、うんって許してくれる。
この人は本当に優しくてお人好し。
俺とは違う生き物みたい。
素直で真っ直ぐで、いつだって何だって全力投球で楽しもうとする人。
眩しい太陽みたいなこの人は、やっぱり俺の唯一の親友。
その親友がその日俺に言ったのは、彼の大切な人の誕生日のお祝いをみんなでしたいから、協力してってこと。
『嵐の5人が大好きな翔ちゃんのために、嵐の5人だけでパーティーしたいの!
ご飯は俺とかずくんと潤ちゃんで作ろうね。
あー、かずくん本当にありがとね』
にこにこ笑ってそう言ったまーくんに、俺は素直に頷いて「わかったよ。んで、何時に行きゃいいのよ」って返事をした。
そして、今日。
翔さんのお誕生日。
俺はまーくんの家で絶賛調理中。
潤くんはお酒を調達してもうすぐ到着予定で、お兄さん組(←おじさんって言うと怒るから)の2人には、取材が終わったらなるべくゆっくり帰ってくるようにって俺とまーくんからそれぞれに言ってある。
俺にご飯の準備を手伝ってって言ったまーくんは、今、俺の隣で餃子を握ってる。
「しょーちゃん、俺の握った餃子好きなんだよねー♡」
「はいはい。ノロケは結構ですよー」
「ケチ!」
「うるさいよ」
「もー、かずくん冷たい」
いつもの俺たちの会話。
ずっと変わらない空気。
だけど、その嬉しそうな口元と、甘い話し方。
今さらだけど、翔さんのこと大好きなんだねって俺までなんか幸せな気持ちになる。
サラダのレタスをちぎりながら、ふふっと笑う声を抑えられなかった。