松にいの家に行った後、穏やかに毎日は過ぎていた。
窓の外、いつもの場所にあの白猫は来て昼寝をして、かずは絵本を膝に乗せてうとうとと昼寝をしたりしてる。
かずは白猫をシロって呼ぶようになった。
最近ちょっと困ってるのは、相葉さんと櫻井さんがところ構わずキスしたりイチャイチャする事で、遭遇する度に真っ赤になるかずとやめろって怒る俺のことなんか、絶対なんとも思ってないと思う。
頼むから部屋でしてくれって何回言ったかもう覚えてないくらいだ。
本当、疲れる。
それでも櫻井さんはやっぱり大人なんだなって思ったのは、昨日の夜風呂上がりに水をとりにキッチンに俺がいった時のこと。
ひとりで絵本を見てたかずに、ルイボスティーを淹れ終わった櫻井さんが、言ったんだ。
「二宮くんは、絵本の中だと素直になれるんだね」
かずの声は聞こえなかったけど、俺はなんだかちょっと感動してた。
そうなんだ。
かずは元気だった頃から思ったことを素直に口に出すほうじゃなかったけど、絵本を作ってる時は違った。
心の中の言葉をスラスラと紡いでいて、いつも口元が柔らかく弧を描いていた。
俺はそんなかずを見てるのが好きだったんだ。
きっと、かずの心の中の色んな声は文字になるのを待ってるんだ。
溢れるような言葉の音符は、あの絵本みたいに綺麗なメロディーになっていく。
また、そうなったらいい。
これからもう一度、かずが文章を書けるようになれば良いなって思ってた。
じゃあ、おやすみって階段を上って行った櫻井さん。
さっきの言葉はかずだけじゃなくて、俺にも響いてた。
水のペットボトルを持って、かずと部屋に入る。
いつも通りかずを柔らかく抱きしめて目を閉じたら、隣の部屋からはまたあの声が聞こえてきた。
さっきまでの穏やかな気持ちは吹っ飛んで、頼むから静かに眠ってくれと願うけど、そんな願いは届くはずもなく、真夜中過ぎまで続いたその声。
かずは耳を手で覆って俺の胸に頭を擦り付けて来るから、俺は硬くなるオレをかずに気づかれないように腰を少し引いて必死で自分の欲を抑えた。
もう、なんか疲労がすごくて、眠ったのに全然寝た気がしなかった。
それからしばらくして、俺は相葉さんと櫻井さんにマンションに帰ってくれってお願いすることになった。
二人は「なんで?」って言ってたけど、理由を言ったら相葉さんだけ、ちょっと赤くなった。
平気な顔してた櫻井さんって、本当によく分かんない人だよなぁ。
相葉さんが居なくなるのは嫌かなって心配してたかずは「相葉さん達、マンションに帰ってもらおうと思うんだけど」って言った俺に、意外なほどあっさり頷いた。
かずも、毎日キッチンでも風呂でも部屋でも玄関でも、ところ構わずイチャつく二人に遭遇しては真っ赤になってたから、困ってたんだろうな。
二人が帰ってきて、ひと月も経たずに。
シェアハウスも同時にやめることになった。