ピンポーンピンポーンピンポーン
3回鳴らされたチャイムにかずと目を合わせた。
松にいからの電話が切れた後、朝ごはんの片付けを済ませてから、庭に面したガラスの引き戸を拭いてた時だった。
誰だろうって言いながらかずを見ると、ちょっと顔が強ばってる。
俺が出るわって言ったら、廊下の角まで来てそこで握ってた俺のセーターから手を放した。
「はーい。どなたですか?」
「お!俺だよ俺!早く開けろ、重いんだから」
「は?松にい?え?なんで?」
「いいから早く開けろっ」
玄関の外から聞こえるのは、さっき電話で話してた松にいの声。
俺が戸惑ってるのに、せっかちな松にいはもう苛つき始めてる。
慌てて土間に降りて玄関を開けた。
「お前、おせーよ。これ、受け取れ」
顔を見るなり遅いって文句と一緒に渡されたのはでっかい丈夫そうな紙袋。
なんか、野菜がいっぱい入ってる。
田舎からさっき届いたんだよって言いながら靴を脱いでさっさと廊下にあがる松にい。
その声にかずが顔を出した。
「おう。元気か?上手い野菜届いたからよ、蒸して一緒に食おうぜ。昼メシ予定ないだろ?」
話しながらかずの肩を抱いてさっさと歩いてく。
かずも頷いたりうんって返事したりして、普通にしてる。
何やってんだ。早く野菜持ってこいよって言う声でハッとして台所に向かった。
袋にはジャガイモ、にんじん、白菜、ねぎ、シイタケ、カボチャ、さつまいも、玉ねぎがゴロゴロ入ってて。
もう一つ松にいが持ってる袋からはリンゴとミカンが出てきた。
松にいは野菜をキレイに洗うと皮付きのままデッカイフライパンに入れていく。
そのフライパンは松にいの家にあるのと同じで、少しの水で茹で野菜が甘く出来るとかってやつ。
すげぇ重いんだけどかずは、いつもそれで料理をしてた。
「これ、松にいのオススメなんだよ」って、嬉しそうに話しながらとうもろこしを茹でてたのを思い出して、ちょっと泣きそうになった。
茹で上がった野菜を大皿に乗せて、ダイニングテーブルでみんなで食べた。
バター、ケチャップ、マヨネーズそれぞれ好きなものをつけたり、つけなかったりして熱々の野菜を食べる。
「うまいだろ?地球の味がするだろ?うまいもん食ってぐっすり寝たら良いんだよ」
田舎のじいちゃんと同じこと言ってる松にいは優しい顔してたから、俺も素直に頷いた。
かずは、さつまいもにバターをのせて渡したらもぐもぐと食べ始めて「美味しい」って言って少し笑った。
いつも通り元気に話す松にいと、くすくす笑うかずはあんな事があったようには見えなくて、先生が言ってた普通にしてくださいってこういう事なのかななんて思ったりする。
食べ終わった松にいはかずの淹れたコーヒーを飲みながら、自分の鞄から風呂敷に包んだ薄くて四角いものを取り出した。
するっと風呂敷を取って「ほいよ」ってかずの膝に乗せられたのはかずと俺の『MUSIC』。
手のひらくらいの隙間を開けて座ってたかずにピタッとくっついて、かずがめくるページを覗き込む。
優しい色はそのままに、かずの言葉がキラキラ踊ってる。
「それ、お試し版な。お前らがそれでOKなら後は2人の紹介文つけて出来上がり」
うんって頷くばっかりの俺たちにそんで良いのかって松にいが聞いて、またうんって頷く。
「じゃあ、これで決定な。かず、おめでとう」
優しい松にいの声。
じーっと松にいを見てるかずの鼻の頭が赤くなって、上目遣いの丸い目からポロポロっとこぼれた涙。
何も言わなくても、嬉しいって気持ちが伝わってきた。