ウトウトしてた。
寝不足だったし、松にいのところから自転車爆走で帰ってきたし、かずからいい匂いがするし。
小さな明かりと静かな寝息とうるさいイビキが、いっそハーモニーのように響いてたけど、眠さに勝てなくてウトウトと眠っていた。
突然聞こえた叫び声にハッとして目が覚める。
「いや!!触らないで!!」
「雅紀」
「もういや!!もうっ………!!」
相葉さんの叫び声と、櫻井さんの相葉さんを呼ぶ声。
抱きしめる櫻井さんの腕の中で、いやいやと叫びながらめちゃくちゃに暴れる相葉さん。
それでも相葉さんを宥めるように、雅紀大丈夫。俺だよ大丈夫。
そう言い続ける櫻井さん。
かずは?
腕の中のかずはじっとしてた。
横顔を覗いてもその目は静かに開いてた。
相葉さんと櫻井さんの眠る布団から荒い息と、衣擦れの音がする。
大丈夫、大丈夫って声と衣擦れの音が重なってる。
薄明かりの中で相葉さんの背中をさする櫻井さんが見える。
櫻井さんが抱きしめて相葉さんを宥める。
荒い息が少しずつ治まって、やがてすぅっと寝息が聞こえてきた。
もう一度眠っていく相葉さんを優しく包むように抱いて、優しく布団に寝かせてると櫻井さんも横になった。
しばらくするとぐおーと、またうるさいイビキが聞こえてきて。
かずは眠らないままで、相葉さんを見つめてた。
そんなかずを抱きしめて、俺もまたウトウトと眠りに落ちた。
「いやあああああ!!」
叫び声と荒い息。
ビクッとして目覚めると、まるでデジャヴのように相葉さんの背中をさする櫻井さんが見えた。
ジタバタと身をよじって嫌がる相葉さんを、ただ静かに抱きしめる櫻井さん。
抱きしめる櫻井さんの腕を、指がくい込みそうなほど掴んでるのが見えた。
それでも櫻井さんの声は穏やかで、ただひたすら背中をさすり続けていた。
少しずつ荒い息が小さくなって、またすうっと寝息が聞こえて、少し遅れてイビキが聞こえてくる。
俺も眠気に逆らえずにまたウトウトとしていた。
もう何度目なんだろう。
叫び声と荒い息が聞こえた。
ゴソゴソと布団の上で動く音、規則的な衣擦れの音。
重い瞼をあげると、まだ荒い息でジタバタと暴れる相葉さんを櫻井さんが抱きしめていた。
雅紀、おれだよ。大丈夫だよ。
何度も繰り返される優しい声。
相葉さん、大丈夫なんだろうか?
ほとんど眠れてないんじゃないか?
櫻井さんも眠った気しないよな。
これはしんどいと思う。
うなされるって、こんなに?
ここまでうなされるって...見てるだけでキツイ...。
腕の中で無表情なまま眠らないかずと、叫び暴れる相葉さんが重なって見えた。
少しずつ静かになった相葉さんに、低めの甘い声で何かを話して、櫻井さんが部屋を出た。
かずはずっと相葉さんを見てて。
手がひらひらとピアノを弾くように動いてた。
戻ってきた櫻井さんに着替えさせてもらった相葉さんが、かずの視線から目をそらした。
それから櫻井さんは、自分のマンションに行こうって相葉さんに言った。
マンションってなんだ?って思ったけど、相葉さんのあの姿を見てたら、ここにいるよりはきっといいんだろうなって思った。
一瞬こっちを見た相葉さん。
櫻井さんが真面目な顔で俺に聞いた。
「大野くん」
「………はい」
「二宮くんのことは、任せて大丈夫だよね?」
「はい。大丈夫です」
自信を持って答えた。
もう迷わない。悩まない。
どんなかずでも受け入れるし、どんなかずでも好きなんだから。
櫻井さんがコクっと頷いて、相葉さんの荷物をまとめ始める。
「かずのことは、任せてください」
俺を見た相葉さんに答えると、相葉さんもコクっと頷いてくれた。
そして、櫻井さんに支えられて相葉さんがシェアハウスを出ていった。
かずは何も言わなかった。
ただじっと、相葉さんを見つめてた。
茶色い綺麗な目は感情を消してしまっていたけど、相葉さんだけをじっと見ていて、ひらひらうごく手とリズムを刻むように動く足だけが動いてた。
窓の外から車のエンジン音が聞こえたけど、すぐに遠ざかって聞こえなくなった。