玄関に入ってすぐに、手を握った。
それからかずを抱き寄せた。
少し力が入った身体は、まだおいらを許しては無いんだって言ってるみたいで、なんか寂しくなる。
寂しさを埋めたくてぎゅっと抱きしめ直したら、今度はおいらの胸に手を当ててぐっと押してきたから、少し離れた。
かずは表情の読めない顔をしてて。
じっと見つめたら
「ちょっと離れて下さい。靴脱いで、とりあえず上がりましょ」
って言われて、まだ靴を履いたままだと気づく。
考えたらここは玄関だし、かずの言うことがもっともだよな。
うんって頷いて、かずから離れて靴を脱いだ。
かずは脱いだ靴をスッと揃えて、ぺたぺたと洗面所へ歩いていく。
その後ろをつかず離れずの距離で歩くおいら。
いつもなら、かずの腰に後ろから手を回して抱きつくように歩いたり、かずがおいらにそうしてたりしてる。
荷物が多い時は別だけど、こんなふうに一緒に帰ってきたのに、くっついて無いことがすごい違和感だ。
だけど、おいらは元々ベタベタすんのは得意じゃなかったはずなんだ。
触られるのも、束縛されるのも好きじゃなかったのに、かずがおいらを変えた。
あの仔犬みたいなキラキラの目でおいらのそばで笑ってて、いつも色んなこと話してた。
あの京都の日々だって、マジでキツイ時も多かったけど、毎日かかってくるかずからの電話で、当たり前の日常を感じることが出来た。
学校の話や、ジュニアの番組の話、家族の話、お前はいつも楽しそうに話してた。
舌っ足らずの甘えたような話し方は、今も変わらない。
男にしては少し高い声。
時々、低くていい声で話してるの聞くと、実はちょっとドキッとすんだよ。内緒だけどな。
お前のその少し高い声が『おーのくん』って呼ぶの好きだったな。
『おーのくん。俺、寂しい。早く帰ってきて』
電話の最後はいつもそう言ってたお前。
2回目の京都は、逆だったな。
『かずー、おいらもう帰りたい』
『もう少しだよ。がんばろうね』
お前の『がんばろうね』って言葉に、支えてもらったんだ。
がんばれ じゃなくて
がんばろうね
お前も一緒にいるって言われてるみたいで
お前も、寂しいの我慢してるって思えて、がんばれたんだよ。
そんなかずとデビューして、戸惑ってイラついたり落ち込んだりするおいらを、やっぱりお前が支えてくれてたんだ。