”和ちゃんいつも産んでくれてありがとう”
ピコンと画面に出てきたのはあの人からのいつものメッセージ。
いや、いいんだよ?いいんだけどさぁ。
なんでうちの母親を和ちゃんって呼んでるのよ。本当にどうでもいいんだけど、でもなんか気になるっていうか...まぁいいや。
そんなことより今年も誕生日を覚えてくれてて、日付けを過ぎてすぐにメッセージくれるとことか、いつものあなたすぎて好きだなって思う。
いつもありがとう
直接は伝えられない返事を心の中で呟いたら、今度はなんか動画が届いた。
大好きな南の島のリゾートみたいなあなたのあの家の、でっかいソファーの前のふわふわの毛足のラグの上にちんまり座って、胸の真ん前までガラスのお洒落すぎるローテーブルをひっぱってきてお酒飲んでご機嫌なあなたの自撮り動画。
”かずぅ~愛してるよぉ~”
どっかでいつかの俺が聞いた事のあるセリフ。
アンタ酔っ払うとそれどこでも誰と居ても言うから、一時期みんなに生暖かい目で見られてたのアンタ覚えてる?
俺は覚えてるよ。
すんげー恥ずかったもん。
思い出して耳が赤くなるのをその熱で自覚した。”俺も動画送ったんだからお前も送れよ”
って、それ誕生日プレゼントとして成立してんの?
俺がしたならお前もって、なんでちょっと威張ってるのよ。
そんなワガママ言うのは俺にだけって知ってるけど。だからそれが一番のプレゼントになるって事、アンタは分かっててやってるんだよ。きっと。
本当、相変わらずだなぁ。
ズルくてカッコイイ。
好きだなぁってまた今年も思って1年が始まる。
アンタが早くなれって言ってた40にやっとなったよ。
なのになんでそんな遠くにいるかな。
いつもの座布団に座ってローテーブルの上には自撮り用に置いたスマホとノートパソコン。画面に映るのはいつかの全然動かない大野さんの動画。
”たまには喋って動いてくださいよ”
呟くように言った声は震えてなかったかな。
ポチッと動画を送ったら、嬉しそうにサムズアップする犬のスタンプが送られてきた。
それを見てニヤニヤしてたらグループの方にもメッセージが届いた。
”さて、皆様本日我らが二宮和也くんのお誕生日でございます。心よりおめでとうの言葉を送りますと共に、来る○○日、いつもの店で集合したいと思っております。万障お繰り合わせの上、是非ともご参加のほどよろしくお願いいたしますってことで、智くん頼むよー”
って、翔ちゃん、楽しそうな顔が見えるみたいだよ。
”風間ぽんもおめでとうだよー”
”あ!もちろんにのちゃんもおめでたまきん”
”ニノ誕生日おめでとう。プレゼントもう少し待っててな。○○日OKです”
ちゃんとしてるよ。
”ありがとう。俺も○○日大丈夫です。翔ちゃんいつもありがとうね”
んで、既読スルーしてんのはアンタだけなのよ。
”返事しないの相変わらずだなぁ”
”違うわ!入力遅いだけだわ!行くかんな○○日”
って、ちょっと怒ってんのも相変わらずで幸せだなぁ。
毎年、こんな風に何か理由があっても無くても、あなたに会いたいし、皆と会いたいよ。
そんなこと面と向かっては言えない俺だけど、きっと言わなくてもアンタも皆も分かってくれるから、今年も俺の気持ちが伝わるようにがんばるよ。たぶん。
テーブルの上の空になったグラスの中の氷が音を立てる。もう一杯だけ、このメッセージを見ながら飲もうかな。
立ち上がったら雨上がりの夜空に小さい星が見えた。