お別れに向けて | プロレスラーにあこがれて

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@nakamuraigf

2018年元旦。時刻は深夜0時を回り、街中には除夜の鐘が鳴り響いている。
世間が新年を迎えている中、二人の男が土俵下の対角線上で向き合っていた。

元横綱朝青龍。


そして元大関、琴光喜。

二人とも少し物憂げな表情を浮かべていた。


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2004年1月〜07年5月までの3年4ヶ月間、一人横綱だった朝青龍。
言い方を変えると、3年間朝青龍に敵う相手は誰一人いなかったということだ。いや、敵いそうな相手さえ誰もいなかった。試合はほぼ秒殺。最初の立合いで試合が終わっていた。
彼が一人横綱の期間、21場所中16場所優勝。白鵬の綱取りが成功する2場所を除くと19場所中16場所を優勝。その内、全勝優勝は5回。
圧倒的だ。ケガや精神的なムラはあったものの、万全なら優勝は朝青龍で決まりだった。






琴光喜は魁皇、千代大海と共に日本人三大大関として名を馳せた。
武器は日本人離れしたスピードと当たりの強さ。
日本人横綱候補としてファンの期待を一身に集めていたのは高安でも稀勢の里でもなく、琴光喜啓司だった。


しかし2010年、朝青龍は暴行事件で、琴光喜は野球賭博を原因に土俵を去った。



そんな二人が2018年、土俵上で対峙した。

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二人が引退して8年。長い年月が経っていた。

琴光喜は廃業後、処分撤回を求めたが失敗。その後、別件で逮捕もされていた。

琴光喜のたるんだ腹、薄くなった頭が彼の過ごした年月を物語っているようだった。


朝青龍がいつものように見得を切る。悲壮感を振り払うように。時間です!と聞こえた気がした。
懐かしいな。
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この瞬間は、あの時にタイムスリップしたようだった。でも琴光喜、大丈夫なのか…。

朝青龍も引退後とはいえ、身体にはハリがある。復活したレジェンド格闘家がボロ負けする様な、そんな試合を覚悟した。



琴光喜の目にはまだ哀愁が漂っている。
自分に気合いを入れる様に、パチンと大きく手を叩く。

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琴光喜が最初に土俵に手をつく。
早い立合い。激しくぶつかる両者。琴光喜が上半身を張る。琴光喜は右四つを確保するが、両回しを掴んだ朝青龍。すくい投げを狙うが、琴光喜は間一髪耐え、体勢を立て直す。しかしギアを上げた朝青龍が琴光喜を土俵際まで押し、寄り倒し。

あの時の名勝負だった。あの時の、横綱相撲だった。

熱戦の後、土俵上で軽く体を寄せた両者。琴光喜の目には涙が浮かんでいた。
土俵上で久々にガッツポーズを見せた朝青龍。琴光喜とは対照的な行動だが、表情は切なげだった。


相撲界の重鎮であったのに関わらず、土俵を追われる様に去った2人。

取組後、朝青龍は相撲との、朝青龍の名との決別を宣言し、本名のダグワドルジとして生きると語った。
琴光喜は、これで本当に引退した様な気持ちになれたと、これからは子どもたちを指導したいと語った。

朝青龍が主演の当番組だが、これは引退式をすることもなく角界を去った、琴光喜への8年越しの餞だったのかもしれない。
でも僕はそれ以上に、相撲ファンの琴光喜からの卒業式のように思えた。
やっとこれで琴光喜とお別れができたと、僕はそう思った。







青木と鈴川、出なくて良かった…。
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