まるで怒りをぶつけるかのように沸き立つ「お湯」を見ていた。

「地獄のように」ぐつぐつと沸いているお湯は、見ているだけ熱く感じる。

僕はタイミングを見計らって、そのお湯に1玉の「麺」を放り込んだ。

もしも麺に心があるのなら、僕の事を地獄に誘う「死神」のように感じているのだろう。

悪意はない。僕も死神も仕事なのだ。

乾いた硬い麺を地獄のようなお湯で茹でながら、そんな事を思っていた。ピピピッとタイマーが鳴り、僕はタレと油を用意した「どんぶり」に熱々のスープを注ぎ込んだ。

夏。ラーメン屋さんのキッチンは「本物の地獄」と化す。

スープ、茹で麺機、仕込み中のチャーシュー。寝室ほどのわずかな面積で「使える火力」を全て使う。

しかし、その美味しいラーメンを作るための「火力」は、僕らの体力と精神力さえ燃やし尽くそうと襲いかかってくるのだ。

負けてたまるか。気合いと根性で踏みとどまった僕は、製氷機から氷を1つ取り出しておデコに当てた。

氷がゆっくりとと水に変わっていくのを感じながら、その場を耐え忍んだ。

部活をしていた学生の頃は、自分たちより汗をかかない大人たちが「お金」を貰える事をズルいと思っていた。

毎日の練習は、どんな仕事よりも「大変なもの」だと。。

この歳になってわかった。大人は意外と汗をかく。

それも「強くなるために」ではない。生きるためにだ。

きっとラーメン屋さんだけではない。みんな生きるために必死になって汗をかく。今日も明日も明後日も。

あの頃「本気」でかいていた汗が、今は「命懸け」の汗に変わったのかもしれない。

ようやく1日の営業が終わり、命懸け汗が染み込んだシャツを脱ぐと込み上げてきた言葉がある。

だから、耳を澄ますように読んでほしい。

命懸けの汗をかいた体への言葉、紡ぎます。


『痩せないなあ。』