
1.はじめに
現在、調布駅前で大規模な再開発が行われているなか、本年1月16日に、調布市役所による「平成29年度第2回 調布駅前整備に関する説明会」が文化会館たづくりで開催されたので、出席してきました。会場にはおよそ150名の住民が参加していました。個人的には、長友貴樹・調布市長の独裁的な姿勢ばかりが印象に残る残念な説明会でした。
2.前提となる事実
現在の調布駅前は都内の駅前にはめずらしく、樹齢が数十年や百年を超えるイチョウやユリノキなどの立派な樹木が100本以上立ち並ぶ緑豊かな空間となっています。ところが長友市長はこの100本以上の樹木をすべて伐採・処分し、調布駅前の南北に2つの大きな円形のロータリーを建設することを表明しました。同時に南側の旧・タコ公園の場所を含む2900平方mの区域は地面を掘り返し、自転車1900台を収容するための地下駐輪場を建設することも示されました。これを受け住民による反対の署名活動が行われ、1万6千筆の反対署名が集められ、調布市役所に提出されました。
これにより調布市は、平成29年3月に市議会に、樹木の一部の移植のための補正予算等を提出し、市議会の承認を受けました。そして、その補正予算につき市議会から市民の同意を得ることを予算執行の条件とされたため、調布市は同年4月・5月に「市民会議」を開催しました。そして市民会議の内容を調布市は市議会に報告し、同年12月に地下駐輪場の設計変更に関する補正予算が市議会で可決しました。

(「平成29年度第2回調布駅前広場整備に関する説明会」で配布された資料より)
3.長友市長・調布市役所側の説明
1月16日の説明会で市役所側から説明があったのは、概要としては、①イチョウなどの樹木4本はできるだけ現位置で存置する。明樹会の樹木は記念樹であることを明確化する。②その他最大30本の樹木を駅前広場で再活用する。③今後、植える樹木は樹木が障害とならないよう配慮する。としたうえで、地下駐輪場の建設は一部修正を加えるものの続行するというものでした。

(「平成29年度第2回調布駅前広場整備に関する説明会」で配布された資料より)
樹木について、具体的には、つぎの図における、オレンジ色の丸の樹木合計6本は現位置で存置させ、赤色の丸の樹木合計30本を移植し活用する樹木とすることとし、残りの約65本の樹木は伐採・撤去されることとなるそうです。

(「平成29年度第2回調布駅前広場整備に関する説明会」で配布された資料より)
また、駅前工事の全体スケジュールはつぎの図のようになっています。つまり、調布駅前南側の区域は着工するのが平成33年、終了が平成35年となっており、現時点においても長友市長がしきりに強調していた「オリンピックまでに」には間に合わないことになっています。

(「平成29年度第2回調布駅前広場整備に関する説明会」で配布された資料より)
4.質疑応答
質疑応答では住民側からさまざまな意見・質問が出され、市役所側が回答をしていました。印象に残った3点ほどをピックアップしたいと思います。
(1)一つ目として、2017年3月に調布駅北口にあった交番が南口に移設されたことに関して、住民側から「市当局は『警視庁からの強い要請があったから』と説明していたが、実際に警視庁に質問に行ったところ、『そんなことはまったくない、むしろこちらは南口の新しい場所は大きなシラカシの樹木があるのにいいのかと調布市に問い合わせていた、住民の意向に反していたのであれば申し訳ない』と謝っていた。そもそも交番は整備計画では公的複合施設の一角に収納されるはずであったのに、市が市議会の承諾を得ずに独断専行をすることは許されるのか?」という質問が出されました。
これに対して、市役所の管理職クラスの方が回答をしましたが、整備計画のスケジュール表等を漠然と読み上げるに終始し、住民側の質問に答えていませんでした。
(2)二つ目として、住民側から、「自転車1900台を収納する2900平方メートルもの地下駐輪場を建設する必要が本当にあるのか。2900平方メートルとは、調布駅北口の近くの大きな第一小学校の面積より大きい数字である。タワー式・機械式の駐輪場を地下化した京王線や相模原線の地上部分の跡地に作ればよいという住民側の示した対案では何故だめなのか?」との質問が出されました。
また、これに関連する住民側の質問として、「市は、駅前のロータリーを現行の1.8倍にも面積を拡大する方針であるが、その理由として、①調布と成田などを結ぶリムジンバスの停留所を北口から南口に移すこと、②明治大学付属中高のスクールバスの停留所を南口に作ること、の2点のみしか挙げないが、なぜそれだけで面積が1.8倍にもなるのか?」との質問も出されました。
しかしこれら2点について、市役所側の回答はペーパーを読み上げるばかりで、明確な回答がありませんでした。
たしかにこの点、自治体や公務員は「全体の奉仕者」であって、特定の団体や事業者に特別の便益を図ることは許されません(憲法15条2項、地方公務員法30条、調布市職員の服務の宣誓に関する条例2条、別記様式)。市当局の方針は、リムジンバスを運営する東京空港交通や、明治大学付属中高などの団体・事業者への特別利益の提供にあたり、憲法や地方自治法、調布市の条例・規則に抵触しているのではないかと思われます。
また、この超巨大な地下駐輪場の建設には約16億円もの予算がかかるとのことですが、それはただ単に建設業者を儲けさせるだけではないでしょうか。そして長友市長ら与党側の政治家は、建設業者からのキックバックを期待しているのでしょうか。
たしかに調布駅南口から品川通りに向かう大きな直線道路の両脇の広い歩道は、両側がスーパーなど商業施設であるため、日常的に多くの自転車が止められています。しかし、質問をした住民の方々が述べるように、タワー式・機械式の簡素で安価な駐輪場を作る方策もありますし、そのための敷地は京王線・相模原線の地下化に伴い、駅前にはたくさんあります。最近も京王線の地下化を受けて、駅周辺で駐輪場が相次いで建設されていますが、たとえば文化会館たづくり・調布市役所の裏側(北西)の駐輪場(「調布西第1路上自転車駐輪場・オートバイ駐輪場」)等はがらがらに空いています。(なお、2017年4月に新設された2か所を含め、現在、調布駅前周辺には公共駐輪場がすでに8か所あり、2018年4月にはさらに2か所が増設されます。)

(がらがらに空いている「調布西第1路上自転車駐輪場・オートバイ駐輪場」)
あるいは、となり町の府中市は府中駅前の大通りの左右の幅広な歩道の一部をそのまま駐輪場にして、管理員を配置し運営しています。この方式は都心の駅前でよく見られます。これはコストは人件費だけで非常に現実性が高いのではないでしょうか。
このように、あえて地下を2900平方メートルも掘り返して16億円もの巨費を投じて1900台もの超巨大駐輪場を建設する必要性が見当たりません。
(3)三つ目に、市議会から市民の同意を得るようにとの指示を受け、平成29年7月に市役所は市民を招集し駅前整備計画に関する「市民会議」を3回開催したそうです。この点について、住民側から「市民会議の開催後に長友市長は市民会議の市民を個別に一人ずつよんで面接している。このようなやり方は、「市民の同意が得られた」とは言えないのではないか?民主主義の破壊ではないか?」との驚くべき質問がありました。
これに対して長友市長はその事実を認め、「一部の市民の方からは、『話を進めてよいのでは』とのご意見を頂戴したので、市民の同意を得たと考えている」と苦しい答弁をしていました。
これには驚いてしまいました。私は長年調布市に住んでいますが、調布市はそれなりに文化的で理性的な街だと何となく思っていました。図書館などの設備も充実していますし。しかしその市長、しかも「市民派」が売り文句の長友市長が、こんなブラック企業の採用における圧迫面接のごとき行いをするとは呆れました。市の最高権力者と一対一で会わされては、反対と言いにくいと感じる住民も多いでしょう。なにより市民会議という合議体で議論され一定の結論がだされたのに、その後にそのメンバーを最高権力者が一人一人呼んで問い詰めて、引き出した自分に都合の良い答えを「市民の民意」とするスタンスは、とても民主主義国家のものとはいえません。
また、説明会冒頭のあいさつでも、長友市長は「ごく一部市民の強い反対により計画が中断している」等と発言し、整備計画に反対する住民の方々への怒りを隠そうともしませんでした。しかし、一つの自治体のある住民を味方とし、ある住民を敵と自治体を分断する考え方は、自治体の住民全員の福利を考えなければならない市長にふさわしくありません。長友氏は市長の資質が欠けています。
4.まとめ
たしかに地方自治法においては自治体の長は広範な権限を有します(148条、149条)。しかしわが国が民主主義国家である以上、それぞれの自治体においても住民による自治(住民自治)が貫徹されなくてはなりません。このことを憲法92条は「地方自治の本旨」という文言で示しています。
そして、地方自治法138条の2は「普通地方公共団体の執行機関は、…事務を、誠実に管理し及び執行する義務を負う。」と規定しています。この条文は、「戦後、地方公共団体のそれぞれの執行機関が自己の職務権限を誠実に執行するという点に欠ける点があり、あるいはその執行を怠り、あるいは権限を逸脱し、あるいは特定の利益に奉仕する等のことに起因して執行が公正妥当になされたとはいえない実情」があったことを踏まえ、盛り込まれた条文です(松本英昭『新版 逐条地方自治法 第8次改訂版』492頁)。
したがって、この誠実義務に照らし、長友市長および調布市は、幅広い市民の意見に耳を傾けることを怠ってはならず、また、そのさまざまな意見を市議会に十分に報告することを怠ってはなりません。また、もし長友市長らが建設会社や明治大学付属中高などの特定の団体に特別の利益を奉仕する目的でこの調布駅前整備計画を推進しているのだとしたら、これも誠実義務に反します。
私はこの1月16日の市の説明会を聞いて、とても長友市長・調布市の推進する調布駅前広場整備計画には賛成できないと思いました。
■関連するブログ記事
・タコ公園のある調布駅前広場の樹木の撤去に反対する署名活動が行われている
■参考
・調布駅前広場整備に関する説明会開催結果(平成29年度第2回)|調布市
・調布駅前南口広場 樹木を守る会
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