定型約款について-改正民法(債権法) | なか2656のブログ

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(法務省。同省サイトより)

1.約款が改正民法で明文化される
平成29年5月に国会で改正民法(債権法)が成立しました。この改正民法は、2020年頃から施行される予定とされています。本ブログ記事では、そのなかで新設された「定型約款」について取り上げてみます。

2.約款とは何か
電気・ガス・水道、銀行・保険・共済などの契約、郵便・電話などの利用契約、運送契約、旅館の宿泊契約などは、企業側が一方的に契約の内容を決定し、利用者はその契約書(約款)に同意するだけであり、それに同意しなければ契約は成立しません。

このように当事者が契約内容につき個別的に協議することなく、企業者が定めた定型的契約条項を利用者(需要者)が包括的に承認(同意)するだけで成立するものを、「付合契約」と呼びます。そして、このような電気・ガス・水道などの各種の付合契約の契約のための定型的契約条項のことを、一般的に「約款」、または「普通取引約款」と呼びます(近江幸治『民法講義Ⅴ契約法[第3版]』24頁)。

3.約款の明文化へ
従来より、これらの約款による取引が有効(=「約款の拘束力」があること)であることは、判例・通説が認めるところでした(意思推定理論、あるいは白地商慣習法説、大判大正4年12月24日等)。

しかし今回の民法改正にあたり、このような約款が民法に定めがないことは重大な不備であると主に民法学者側から主張がなされ、それに押し切られる形で今回、改正民法に約款の条文が新設されることとなりました。

■約款の拘束力、意思推定理論、白地商慣習法説などについてはこちら
・民法改正案 約款/約款の拘束力‐普通保険約款に関連して

4.新設された改正民法第548条の2の要点
新設された定型約款においては、一定の要件のもとで合意したから有効であるとみなし(「みなし合意」)、一方、その定型約款のなかの不当条項をみなし合意から排除し、相手方が不利益を被らないようにしています(「不当条項規制」)。また、定型約款に含まれていることが相手方からみて通常予見できない場合はこれもみなし合意から排除する仕組みとなっています(「不意打ち条項規制」)。

今回の立法の議論の過程では、主に経済界から約款では範囲が広すぎること、事業者間取引の約款は除外すべきことが主張されました。そこで、約款のなかでも「定型約款」が規制の対象となることになりました。

この点、改正民法第548条の2第1項は、定型取引を、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう」と定義しました。

そして、同条同項は、定型約款を「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう」と定義しました。

この2つの定義により、企業間の約款取引、労働契約は定型約款から除外されることになります。

一方、銀行や保険会社などの個人の顧客向け商品の普通約款はこの定型約款に該当することになります。

また、従来からの電気・ガス・水道などの個人向けサービスの普通約款や、企業が個人向けに行う各種のインターネットのサービスの規約なども、それが上であげた定型約款の定義にあてはまるものは、改正民法の定型約款の規定に従わなくてはならないことになります。

5.改正民法第548条の2について
第1項1号は、「定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき」、そして同2号は「定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき」と規定し、事業者等にそのいずれかを求めています。

そのため、事業者等は、たとえば財やサービスの売買契約、利用契約などにおいては、顧客からいただく契約申込書の文中に、「当該財、サービスの利用等にあたっては定型約款により締結する」との一行をいれておくことが最低限必要となります。

改正民法第548条の2第2項の不当条項規制は、消費者契約法10条とも重なり合うものですが、両者はいずれも主張できるものとされれています。

なお、旧法の規定によって生じた効力は妨げられないとして、旧法下で有効とされた定型約款に係る契約の効力は維持されることが、附則33条1項ただし書で規定されています。

(定型約款の合意)
第548条の2

定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
 一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
 二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。


6.改正民法第548条の3の概要(定型契約の内容の表示)
民法改正の議論においては、約款の拘束力の根拠は「契約の両当事者間の合意」であるとする民法学者の立場が採用され、約款が契約両当事者の契約の内容となるための「組入条件」が必要とされました。そしてその要件のために約款の「開示」が必要とされました。

しかしこれに対して経済界からは「難しい」との反論があり、結局、組入要件として「定型約款条項の開示義務規定」が改正民法第548条の3に新設されました。

これを受けて、本条1項は、事業者等は、①定型取引合意の前または定型取引合意の後相当の期間内に、②相手方から請求があった場合には、③遅滞なく相当な方法で定型約款の内容を示さなければならないとされました。

なお、鉄道など公共交通機関の旅客運送約款などは、あらかじめ個別に表示することが困難であるため、鉄道営業法など関連法規が改正され、定型約款を「公表」すれば足りることとされました。

(定型約款の内容の表示)
第548条の3

定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
2 定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。


7.改正民法第548条の4(定型約款の内容の変更)
民法学者の主張する合意原則からは、約款の内容を変更するには相手方の個別の同意が必要となります。しかしそれは困難な場合が多いので、改正法は一定の条件のもとに定型約款の内容の変更を認めることとしました。

この要件として本条1項は、①定型約款の変更が相手方の一般の利益に適合するとき、または②それが不利益変更の場合には、(ア)契約をした目的に反せず、(イ)変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款に変更に関する定めの有無および内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであることが要求されています。

また、その手続きとして、本条2項は、事業者等が定型約款の変更の効力の発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨および変更後の定型約款の内容および当該発生時期をインターネットの利用等で周知しなければならないと規定しています。

そして不利益変更の場合、周知がなければ定型約款の変更は効力を生じないとされています(同条3項)。

(定型約款の変更)
第548条の4

定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
 一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
 二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
2 定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
3 第一項第二号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。
4 第五百四十八条の二第二項の規定は、第一項の規定による定型約款の変更については、適用しない。


■参考文献
・児玉隆晴・伊藤元『改正民法(債権法)の要点解説』108頁
・近江幸治『民法講義Ⅴ契約法[第3版]』24頁
・宮澤里美「今から押さえておきたい民法(債権関係)改正のポイント」『JA金融法務』2017年7月号4頁
・民法の一部を改正する法律案|法務省

・法制審議会 民法(債権関係)部会資料 86-1

改正民法(債権法)の要点解説



ビジネス法務 2017年 09 月号 [雑誌]