【微妙にネタばれ有り】『Sエス-最後の警官』と刑事訴訟法 | なか2656のブログ

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  最近、本屋さんにいくと、近々ドラマ化するそうで、小森陽一・藤堂裕『Sエス-最後の警官』のコミックがどこにいっても平積み状態ですね。私も数カ月前に紀伊国屋書店で平積みを目撃し、それをきっかけに1巻を読みだしたら面白くて、あっというまに最新刊まで全巻読んでしまいました。組織内部のセクショナリズムであるとか、さまざまな思想・立場のキャラクターの群像劇であったり、とても高い画力であったり、現代社会への深い問題意識であったり、とにかく重厚なストーリーがいいですね。

 

 また、この作品は、そのストーリーの根底・伏線に、刑事訴訟法などの法令が控えていて、その点が元法学部生としてはとても興味深いです(刑事法は得意でないのですが・・・)。

 

 たとえばコミック1巻8話(208頁以下)では、被疑者が自殺するおそれが高いことが発覚し、主人公たち警察官が被疑者宅に向かうシーンがでてきます。警察官のひとりが裁判官に対して逮捕状請求の手続きをとるとともに、主人公たちが被疑者宅のカギを開けて中に入る際に、主人公が被疑者に向けて「警察法2条。警察は個人の生命・身体・財産を守る義務があります。」と告げて入っています。これはおそらく実務では、いわゆる「緊急逮捕」(刑事訴訟法210条)の場面であって、①一定の重罪事件で、②高度の嫌疑があり、③緊急性が認められる、という3つの要件がある場合に、これらの理由を告げて無令状で逮捕するものであろうと思われます(そして④直ちに逮捕状請求の手続きをしなければならない)。なお、実務では、おそらく条文どおり①から③を告げたうえで中に入るのでしょうか。

 

 普通の作品であると(とくに特殊部隊物のストーリーであるとなおさら)、こういった手続を省略してストーリーが進んでしまうような気がするのですが、しかし、このような手続をしっかりと描いていることが、この作品のすごいところのひとつであると思います。「手続的正義」(憲法31条以下)と「真実の発見」(刑事訴訟法1条)とのバランスが、「捜査」と「公判手続き」をつかさどる刑事訴訟法の根底にあるテーマなのですから。

 

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