「あなたらしい服装で着てください。私服でも構いません。」
製薬会社の選考通過のメールにあった文章。
この文章がいつも僕たち学生を悩ませる。
「フランクな会社なので、私服でも行っても問題なさそう。」
勝手に決めつけて私服で行くことにした。
選考はの日は日曜日。ほかに選考はなかった。
当日、ワインレッド色のセーターに、
ジーンズ、スニーカー、普段の格好で会社に向かった。
いつもスーツを着ていたので、私服に違和感を覚えた。
スーツの方が楽になっていた。
就職活動を始めるまではスーツが嫌だったけど、
慣れてしまうとスーツが欠かせなくなっていた。
私服でいると緊張感が全くない。
学校から近い会社で
降りる駅も同じであることが拍車をかけていた。
会社に着くと、目に入ってきたのはスーツの集団。
スーツ5人に対して私服1人。
「それが自分らしい服装なのか」と思いながら、
偶然、目の合った学生に質問。
「スーツの人が多いですよね。というより、自分ひとりですよね」
「前に選考があったもので・・・」
本当かどうかはわからない。
1人私服にあとはスーツ、明らかにおかしな光景。
よくアルバイトの面接で
その場にふさわしくない格好をしてくる人と一緒。
正しいことをしているのにKY。
面接が遅れているらしく、
不思議な雰囲気で待つことになる。
正直、早く面接をしてほしかった。
待っている学生の中に
いかにも女子大生していますって感じの
女子学生が僕達に話しかけてきた。
今はリクルートスーツだが、普段の格好が想像できる。
「バックはルイヴィトンに間違いない!」
長井秀和風に心の中で叫んでみた。
彼女は自分の就職活動 の状況について勝手に話し始めた。
「あのレコード会社の説明会に行ったんだけど、ありえなかった。説明会がディスコだし、変なロン毛の兄ちゃんが『○○をプロデュースしたのはオレ』なんて言っているし。絶対にお前じゃないって。」
話し方で普段の格好を確信した。
仮にも志望している会社の待ち合わせ場所。
「そんな話をしているあなたが『ありえないっつ~の』」
花より男子
風のつっこみをしたかったが、
まわりの人も話が終わるように深入りはしなかった。
誰も彼女の発言には反応しない。
巻き込まれるのが怖いからだ。
話し相手がいない彼女は次第におとなしくなった。
しかし、そばにいた人事の人は
傷を深くするように他社の選考状況を聞いてきた。
まわりの学生は言葉を選びながら答える。
そんな縮こまった学生を見て、先ほどの彼女が勇ましく思えた。
そんなことをしている内に自分の面接の番。
ノックをして会議室に入ると、面接官も私服だった。
正直、ほっとした。面接官も同じようだった。
「お~私服か~君だけが私服で来たよ。」
「あっそうですか。自分らしい服装でと聞いていたもので・・・」
2対1の個人面接。
その1人の面接官が自分が「大学生まで皆勤賞」だったことに食いつく。
「君、珍しいね~大学も真面目に授業に出るなんて・・・なんで?」
「せっかく授業料を払っているのに、もったいないからです。」
「そっか~その格好からは想像できないな~」
笑いながら僕は聞き飛ばす。
よく面接で「授業に毎日出ていた」と言うと反応は良かった。
ごくまれにそうは見えないと言われる。
失礼な話だ。
お互い私服で着ているため面接という感じがしない。
授業の話につられ、学校の成績、
ゼミの話などを淡々と話して面接が終わる。
自己PRや志望動機は一切聞かれなかった。
聞いてもらおうように頑張るべきだった。
特に自分の一番の売り、
自己PRを聞かれずに終わってしまうことはよくない。
よく勘違いしている人がいるけど、
自己PRと志望動機が本当に聞かれなかったかを確認してほしい。
質問の中で「自己PRは?」「志望動機は?」と直接聞かれずに、
ほかの言い回しで聞いているかもしれない。
いつもなら、面接後、合格かどうかわかるところだけど、
受かったかどうかがわからなかった。
この会社の面接はいつもそうだった。
その時の僕にはこの会社が就職活動
について
「転機」を与える会社になるとは思ってもみなかった。
【教訓】
自分らしい格好といわれたら、素直に自分らしい服装をすること。選考には全く関係ない。