人でごった返している路地を歩いていると、大好きなカノンの旋律が聴こえてきた。

 

その曲に導かれるように歩を進めると、突然それは目の前に現れた。白、緑、ピンクの外壁と大きなドーム、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂映画で観て以来、一度は訪れたいと思っていたフィレンツェの名所だ。その荘厳な建築物の前で、バイオリンを優雅に奏でるイケメン人。真っ青な空を背景に、まるで額の中から飛び出てきたような情景が広がる。

 

 楽しい時間を共にした人たちに別れを告げて日目。彼らは間もなく次の目的地へ向け、港を離れてゆく。何となく取り残されたような、寂しい気持ち。そんなちょっとセンチメンタルな自分とは真逆な光景に、自然と笑みがこぼれてくる。

そうそう! 今を楽しまなきゃ!  そんな気分にさせられる。

 

 「もういい加減にしたら?!」という強い視線を背中に感じながら、弦をあやつる手が止まるまでカメラを向け続ける。

 

でも…でもね、いくらナイスガイに夢中になっていても、いくらお腹が出ちゃっても、いくらじぃじのように白髪が増えちゃっても、心の中ではしっかり言っているのよ。「こんな素敵な旅をさせてくれてありがとう! いつまでも元気でいてね!」と…。