猫を飼っている

2匹の保護猫である

一匹は昨年5月に生まれた虎猫である

幼いときは美少年であった

いつでも私の後を追いかけ、足にまとわりつき、ヒザにのっては顔を舐める

偏食でキャットフードだけだとそっぽを向くのでツナ缶を混ぜてやる

今はタヌキのように肥え太り、以前の面影もないのだが相変わらず顔を舐めようとする。

口がツナ臭い

 

もう一匹は今年の5月に生まれた三毛猫である

その立ち居振る舞いに”女”を感じる

思わず乱暴に抱きしめて顔中にキスをすると

嫌そうに顔を背ける

嫌われているとわかっていても衝動を抑えられない

 

4月に左下の奥歯が腫れた

歯茎から出血し顎の下のリンパ節まで腫れている

指で触れてみるとグラグラしている

年に何回かは行きつけの歯科医でクリーニングを受けているが

とくに何も言われなかったので、歯だけは丈夫だと自負していたのに

あわてて親戚の歯医者に診てもらったところ親知らずが前の奥歯を圧迫して

接合面に虫歯ができている。

そればかりが歯槽骨が歯周病によって溶けているのでこの歯を救うことはできない

親知らずと共に抜歯が必要だという

頭の中が真っ白になった。

毎年歯科にかかっているのに親知らずのことは何も言われなかった

にもかかわらず歯周病?歯槽膿漏?それで抜歯?????

 

義兄の歯科医に診てもらっても同じ診断

ならば、インプラントを専門にしている医師に抜いてもらうことにした

手術日はあと数週間後である。

その間も歯茎から出血は続いている。歯槽膿漏から血膿が出ているのだろう。

私は自分が内面から腐り始めていることを自覚した

がんの専門医として毎日のように診断手術をしているが

自分の体の中にがんがあることを宣告されたときの衝撃はいかばかりか

認めたくないが、胸に手をやると確かにしこりがある、忌まわしい硬さの

取るなら1日も早く取りたい、その1ー2週間の遅れで手遅れになることはないだろうが

1日1日が待ち遠しい、

僭越ながらがん患者さんの気持ちがわかったような気がした。

 

がんが取り切れて、きれいに再建できた女性の笑顔は打って変わって晴れやかである

台風一過、晴れやかな青空のようである

わたしはそんな現場に毎日立ち会わせて頂いているのである

 

三毛猫を抱きしめて顔中にキスをすると、顔を背ける

お前の敏感な嗅覚は俺の歯槽膿漏の吐息が我慢できないのだろう

虎猫よりも口がツナ臭いか?

お前のためにも1日も早く親知らずと奥歯を抜いて社会に復帰したい

歯肉が上がって粘膜が上皮化したら、

すべての歯をクリーニングしてマウスウオッシュして晴れやかな笑顔でキスをしたい

そのときお前もきっと笑顔で受け入れてくれるであろう