私は医師である。医師であるからには人格も高潔であろうと、思われている。特に癌の情報提供ボランティア、キャンサーネットジャパンを創設し、永年、社会に貢献していると、「ああ、あの南雲先生ですか。一度お目にかかりたいと思っていました」などと尊敬のまなざしで見つめられて、医療相談をされたりする。しかし、誤解なさるな。私は相当なワルなのである。子供を泣かせたり、チワワをふるえさせたりなんぞお手の物である。道に直接座り込んだりはしないが、ハンカチさえ貸してくれれば座ることもいとわない。人を震え上がらせることは日常茶飯事で、手術室でもわたしが暑いといって暖房を切るので、看護師はみんな震えている。ただこんなワルでも、ときどき、寂しくなって枕を濡らすことがある(枕をむらすことは汗かきなのでいつもである。シーツを濡らすのは小学校の4年で卒業した)。寂しくなるのは必ず周期がある。クリスマスから大晦日は無性に寂しいが、正月になるとちょっと元気になる。節分は元気だがバレンタインデーは相当寂しい。しかしこんなワルでも慰めてくれるお人好しはどこかにいるはずである。あわよくばそんな女性をだまくらかして、老後の面倒を見てもらえれば、私はきっと長寿を全うできるであろう。