昔、なぐちゃんの家は五反田の駅から10分ほどの所にあった。1階は父親の病院の受付と診察室、2階は手術室と病室、3階は病室と食堂、従業員の部屋、4階が家族の部屋であった。夕方になるとおとうちゃまが手提げ金庫を持って階段を上がってきます。そうそう南雲家では父親のことをおとうちゃま、母親はおかあちゃまと呼んでいました。なぐちゃんにとっておとうちゃまはあこがれの存在でしたから、いつも腕にぶら下がったり、その腕にキーロックをかけたりしていました。
あるときおとうちゃまが金庫の中のお金を僕と姉に見せて、これは誰のお金だと聞きました。
僕は「おとうちゃまが稼いだのだからおとうちゃまのお金だ」といいましたが、違うと言われました。
そこで「家族みんなのお金だ」といいましたが、それも違うと言われました。
誰のお金かと聞くと、「これは患者さんから預かったお金だから、患者さんのために使わなければいけない。僕らが贅沢のために使ってはいけない」といいました。
なぐちゃんは今でもそれを真に受けて、質素に過ごしています。