正月は友人の招きで台湾で迎えた。
初日の出を拝むために滞在しているホテルの裏手の山に登った。
フロントの話では山頂まで30分とのことだったが、
かれこれ1時間近く坂道を歩き続けているのに
一向に山頂の気配は見えない。
全身が火照ると感じたとたんに、汗がにじみ始め呼吸が荒くなりだした。
やがて革ジャンの下に着ていたセーターを不快に感じるほど体温が上がった。
革ジャンを脱ぎ、まもなくセーターを脱ぎ、しまいにTシャツ一枚になったが
暑苦しさは変わらない。それもそのはず山頂に近づくにつれて勾配は急になってきたのだ。
「人生は重き荷を負うて、坂道を上るがごとし」
徳川家康の人生訓がこだまする。
それはそうだろう。三代将軍の時代まで「大御所様」として実権を握り、
死して東照宮に祀られようとした者にとって
人生はさぞ重かったであろう。
まてよ、2つの選択肢があるじゃあないか。
このまま苦しい思いをしながらいつたどり着くかも知れぬ頂点を目指して果てるか
残った体力を山を降りるために使うか
降りつ登りつ、登りつ降りつ。結局日の出を前に山を降りることにした。
「人生100年、今が折り返し。荷を軽くして坂道を下るがごとし」
どこからかそんな声がする。
帰り道、これから登ろうとする人たち数人と出会った。
「おはようございます」というと「おはようございます」という答えが返ってきた。
あたかも「これから大変ですね、がんばって」というと
「今までご苦労さま。降り道を楽しんでください」とねぎらわれたように聞こえた。
医師としてがむしゃらに頂上を目指してきた50年。
これで役目が終わったわけではない。
これから登ってくる人に、「大変でしょうけどがんばってください、この先は勾配がきついですよ」
と声をかけて励ましてゆきたい。
それが折り返したものの役目だから。