今日、なぐちゃんは不思議な経験をした。
友人のY君に誘われて西麻布のとある場所に行ったのである。
それは飲食店のネオンもまばゆいようなビルではなく
路地を入ったところにある仕舞た屋であった。
友人は我が家のごとく、声もかけずに玄関から家の中に進んでゆく。
家の中は暖かく、奥に人の気配がするが、友人は顎でその手前の
階段をさしてお前から先に上がれと指図する。
ちょっと待てよと眉間に皺を寄せながら首を横に振ったが、
友人に肩を強く抱きかかえられて、背を押されるように階段を登るはめになった。
真っ暗闇の中を登りながら、この階段は二階で終わらないことに気付いた。
ときどきキセルのような香りが鼻をかすめる中を登り続けると
上の方に薄ぼんやりと空が見える。
そこまでたどり着くのにどれだけ登り続けなければならないのであろう。
後ろを振り返りたい衝動に駆られたが、高所恐怖のためにそれもままならない。
足下に生暖かい風が吹きゆけたような気がしたが
理由はわからない、もしかすると動物とすれ違ったのであろうか。
下から友人の声が聞こえる。右手の部屋で待っていてくれと。
手探りでふすまを開けると樟脳の香りがした。
大きな目がじっとこちらを見ている。