子宮内膜症は世界の女性の約10%が罹患するとされます。

その中でチョコレート嚢胞は最大44%に認められ、嚢胞は骨盤痛や深部病変、疾患の重症度と関連しています(Chapron 等, 2019)。

治療の中心は腹腔鏡による嚢胞切除術です。術後の自然妊娠率上昇や疼痛軽減効果が証明されている一方、外科的切除(特に反復例)で卵巣予備能が低下することが問題視(Roustan 等. 2015)されています。

低侵襲で妊孕性を守る治療法の模索が続いています。

 

エタノール硬化療法(EST)の登場

1988年、岡山大学の赤松らが世界で初めて報告したのが経膣超音波ガイド下のエタノール硬化療法です。赤松先生は岡山大学産婦人科学教室の先輩で私も指導していただきました。

 

方法は嚢胞内容液を吸引し、生食で洗浄後にエタノールを注入・固定し、再度回収して終了するというシンプルなものです。簡便で再発率も低く、当初は広く行われましたが、腹腔鏡手術の普及に伴い次第に下火となりました。しかし近年、再びその有効性が注目されています。

 

自験例25例の検討

当院で施行した患者様は不妊患者様25人(平均年齢33.6歳)で、治療後の不妊治療ではAIH、採卵、胚移植を行い、妊娠20人、出産19人(76%)という良好な成績を得ました

術中の副作用は腹腔内への液漏れで中止4例(16%)、急性エタノール中毒は0例でした。

術後軽度腹痛5例(20%)、6か月以上の経過で再発は3例(12%)でした。

 

ガイドラインの位置づけ(チョコレート嚢胞に対する腹腔鏡手術について)

子宮内膜症取り扱い規約(日本産科婦人科学会2021)では

・Ⅲ/Ⅳ期の手術療法は体外受精以外では妊孕性向上に寄与する可能性が有る一方で

・嚢胞核出術は体外受精の妊娠率改善に寄与せず、逆に卵巣予備能低下を招く

可能性がある、という勧告を出しています。

 

日本産科婦人科内視鏡学会ガイドライン(2024)では

腹腔鏡手術は適切な症例選択のもとでは推奨するものの、薬物療法やART優先が望ましい場合もあるという事を認めて、推奨度はAからBへ引き下げられました。

 

またESTと腹腔鏡的嚢胞核出術の再発率には有意差がないとの報告が有ります。(Ghasamiら, 2022)。

 

考察

自験例では妊娠率が高く再発も少なかったことから、ESTは有効との感触を得ました。

腹腔鏡手術に比べ侵襲が少なく、再発率も高くはなく、卵巣予備能の低下も少ないというメリットを享受しながら採卵の妨げとなる嚢胞を縮小できる点は大きな利点といえます。

 

中等度から重度の子宮内膜症患者において体外受精成績を改善する効果があるという論文も散見されますので、今後ますます再評価されるべき治療法と考えられます。