【再読】 森絵都『クラスメイツ〈前期〉』 角川文庫
本日はこちらの作品を再読しました。
私が初めて読んだのは単行本版でしたが、こちらは文庫本です。
それでは早速、内容について書いていきたいと思います。
以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。
中学校を舞台とした連作短篇集です。
一年A組に所属する二十四名の生徒全員が主人公。こちらの〈前期〉では、半分の十二名、千鶴、しほりん、蒼太、ハセカン、里緒、アリス、吉田くん、陸、ゆうか、美奈、敬太郎、タボ、このメンツの物語が収録されています。
一話が短く、文章自体も中学生視点の易しい言葉遣いで書かれているため非常に読みやすいです。単行本版と同様に一人一人の挿絵付き。落書きみたいな絵ですが、私は割と好きです。
内容はさすがの森絵都クオリティ。登場人物の性格や内面描写がリアルで共感しやすかったです。同じ中学生の子が読んでも納得して共感できる内容だと思います。
平凡で目立たない千鶴が入学を期に自分を変えようと頑張り始める様子や、お調子者を演じているうちにやりすぎて女子から疎まれるようになってしまった蒼太の苦悩など、思春期の少年少女が自分の立ち位置を模索したり他人の評価で一喜一憂したりする様子が巧みに描き出されています。
〈前期〉では特に女同士の友情に焦点が当てられていたように思います。
千鶴・しほりん・レイミーの三人グループに、里緒とアリスの美人美少女コンビ、いつも一緒にいるゆうかと美奈。
それぞれ距離感の違うコンビ・トリオ同士なので読んでいて飽きません。お互いにベッタリなゆうかと美奈に比べると、里緒とアリスは表面的にはさっぱりとした付き合い方です。里緒たちの方が見ていて安心します。
ゆうかと美奈のように四六時中一緒に過ごしていたら、そのうちに段々と相手の欠点ばかり鼻に付くようになってくるのは当然の事だと思います。私にも覚えがあります。いくら双子の姉妹みたいに仲が良くても、結局は生まれも育ちも違う他人同士なわけですから。
ゆうか視点では美奈について【三日もいっしょにいるとうんざりするのに、二日も会わないとさびしくなる】と語られている辺り、相性自体は良いようですが。
千鶴・しほりん・レイミーのグループでは、しほりんが千鶴とレイミーの仲の良さに不安になってしまう気持ちに大いに共感しました。三人グループが、そのうち二対一になってしまうパターンは多々ありますからね。
アリス回で、合宿後にアリスとしほりんの距離が少し近くなるのにはほっこりしました。
読んでいて楽しいのはどちらかというと男子パートの方です。よりキャラが立っています。特に男子トップバッターの蒼太はかなり好きなキャラクターです。実際に自分のクラスにいたら確かにうざいだろうとは思います。
きのこヘアのハセカンは、このちゃんとのやり取りが好きです。ハセカンの純朴さとこのちゃんの天真爛漫さが可愛い。
無口なガリ勉おっぱい星人の吉田くんは、方向性はともかく努力家で、正直、考えていることはだいぶ気持ち悪いのですが、根は良い子なので嫌いになれません。将来は素敵な女の子を捕まえて幸せになって欲しいものです。
昆虫博士の陸は、誠実ではあるものの不器用さが目立ちました。不登校の田町ちゃんにかけた言葉のチョイスにしろ、彼女よりも虫を優先してしまったことにしろ、女子目線で見るとちょっといただけない。まあ男の子なんてこんなものかもしれません。消えた田町ちゃんの真実について明らかになるのは〈後期〉です。
クラス委員長のヒロを親友に持つ敬太郎は、おっとりとした男の子で好感が持てました。家庭的なのもポイント高い。傍目には完璧人間に見えるヒロが実際にはかなり面倒臭い性格をしていることを知りつつも側にいてくれる、懐の深い人物です。ヒロは愚痴るだけじゃなくもう少し敬太郎を大事にした方が良い。
最後のタボは食欲旺盛なメタボ系男子。給食のおかわりジャンケンに命を懸けてます。こういう、記憶力は低いのに給食の献立だけは暗記しているタイプの男子、私の中学時代にもいました。
一通り読むと、キャラクターそれぞれが抱えている悩みや不安も、他キャラの視点では取るに足らないことだということが良く分かって面白いです。みんな自分のことで頭がいっぱい。
傾向として女子の方が湿度高め、男子の方が単純です。
残りの十二名は〈後期〉の方で。
『クラスメイツ〈後期〉』に続きます。
それでは今日はこの辺で。