今のところ金融市場の動向からはギリシャ問題が深刻化してもマーケットの混乱は前回の欧州債務危機時ほどは大きくならずに済むと考えることが出来る。
また、EUはこの金融市場の反応に意を強くし、ギリシャに対して安易に譲歩することはないだろう。
グローバルに低金利やマイナス金利が常態化する中で、利回り二桁の金融商品、それもリスク資産ではなく安全資産の国債があると聞いたら世界中の投資家が買いに殺到するだろうか。
ギリシャの10年債利回りは12%、3年債利回りならば24%(!)という高さである。
だが、この高利回りの理由は安全資産であるはずの国債が安全ではないからである。
欧州債務危機の発生後、ユーロ圏内でも国によってはデフォルトの可能性がある、という事実に、国債利回りにはその国の信用力を反映したリスクプレミアムが乗るようになった。
債務危機の終息とともにドイツ国債に収束する方向へ利回りが徐々に低下してきたが、この流れに再び逆行し始めたのが今回のギリシャである。
昨年初からドイツ10年債利回りはほぼ200bps低下して現在0.1%台。スペイン10年債利回りは2012年には7%台まで上昇していたが、2014年初には4.0%近辺、そして現在は1.3%台である。イタリア10年債もスペインに近い水準で推移している。
株式市場でもギリシャの株式相場が2014年比ほぼ半分の水準まで下落したのに対して、ドイツとスペインは20%~25%の上昇。
この傾向は過去半年ほど顕著で、ギリシャ問題が深刻化してギリシャ株は下落しているが、それ以外の欧州株は大きく上昇している
前回の危機時とは異なり、財政緊縮を経てファンダメンタルズが改善し始めたスペインやイタリアはもはやギリシャに引きずられることなく、ドイツとともに相場が推移している。
これは金融市場が今回のギリシャ問題をギリシャ単体に切り離して見ていることを示唆する。
今のところ金融市場の動向からはギリシャ問題が深刻化してもマーケットの混乱は前回の欧州債務危機時ほどは大きくならずに済むと考えることが出来る。
また、EUはこの金融市場の反応に意を強くし、ギリシャに対して安易に譲歩することはないだろう。
山下えつ子・三井住友銀行チーフ・エコノミスト